2010年07月10日
オーバーマン・キングゲイナー(全26話)
監督:富野由悠季/2002−2003年/アニメ
本当ならリアルタイムで見ておくべきだったはずなのだが、なぜかこのタイミングで見ることになった。当時、ヨガ鳥さんの「キングゲイモナー」というパロディFLASHも見ていたし、元ジブリの吉田健一さんが絡んでいたからそういう流れでも楽しみにしていたはず。で、たしか第一話を見て「神アニメ」認定したはずなのに、それでも見なかった。
あの頃は80年代の劇場版アニメ以外はほとんどアニメ見てなかったし、正直ゼロ年代以降のアニメについていけてなかったので、軽くスルーしたのだと思う。90年代の後半にナーバスなロボットアニメがいろいろあって、そういうのに辟易して見なくなったとこともあるのかもしれない。この作品にはそうした「しんどいなぁ〜」と僕が思っていた内面の問題などがあまり描かれておらず、かなりサッパリとした仕上がりになっていた。
なるほど、こういう描き方なら僕にも見れる。世界観の開陳と自分探しがセットになったようなストーリーではなく、エクソダスを中心とした大きな物語の下で、シベリア鉄道警備隊との戦いという小さな物語が描かれていく。ガンダムシリーズほどのスケールの大きさはないが、それでも富野メソッドとも言える世界構築とその世界を生きる人々の物語を楽しむことができた。
ただ、『 エウレカ 』を見たときのような、消化不良からくるモヤモヤ感みたいなものがないせいで、強く印象に残るということもなかった。この当時に蔓延していた中二病臭さもないせいで、突っ込みどころもあんまりない。ここまでアッサリ作られてしまうと、おっさんがアニメを見ることの意味まで剥奪してしまわれそうで(そんな意味などあるのかどうか知らないがw)、その点はちょっと寂しいというか物足りないというか、そんな気分だ。ようするに、僕が中二病をまだこじらせているという困難さの問題に回収されてしまうので、以下、感想メモ。
第01話 ゲインとゲイナー
なにこの神クオリティ! 曲も田中公平だし、神アニメじゃないかwオーバーマン オーバーマンのクオリティも高いし、ロシアのビジュアルを絡めているのも興味深い。どのアニメも第01話はいいが、この作品は特に良い。これからが楽しみだ。
第02話 借りは返す!
富野作品はいちいち物語がでかいなぁw もう何が何だかよくわからないが、とにかく凄いでかい話が動いていることがわかる。大塚英志が偽史的な想像力でうんぬんとしてガンダムなんかを論じたりしているが、それをするためのでかさを富野作品は持っている。ロシアの凋落貴族的な人とかいろいろ出てきて、何だか面白そうという雰囲気だけは伝わってくる。このでかい感じの作品を僕は待っていたのかもしれない。
第03話 炸裂! オーバースキル
「閉塞感を突破するための行動」とエクソダスを同値している台詞があった。なるほどそういうことか。サラの乗るオーバーマンは『エウレカセブン』のモチーフかな? 今回もシベリア鉄道警備隊との一戦が熱く、かなり盛り上がりのある展開だった。さすが大御所。
第04話 勝利の味はキスの味
シベリア鉄道警備隊のオーバースキルで時間が止まるという設定はかなり大胆だなぁ。こういうアクロバティックな感じも含めて、このアニメ面白い。今回はロシアという舞台に相応しく、決闘の話。ミクロの話とマクロの話が同時並行的にきっちり動いているところが魅力なのかも。SF的なガジェットに深刻になりすぎていないことも含めて。また、決闘のシーンも陰鬱なトラウマ克服合戦とかじゃないので、おっさんでも見れる。戦う目的が「サラのご褒美を貰いたかった」とかそういうレベルがどうなんだという話もあるがw
第05話 シベリアに光る目
ヤッサバ隊長のキャラ立ちが凄いな。エクソダスの一群に捕まったと思ったら、即効で逃げ出してるし。主人公が早くも存在感が希薄w 小さな女の子のエピソードとか、こういう複雑な人間関係とか、富野監督好きやねぇ。あと、オーバーマンのスキルがどれも、超絶的で面白い。
第06話 セント・レーガンの刺客
今回は中だるみ的な回だったが、ゲインに娘がいること、ライバルがいることなどがわかる。そういうちょっとした世界観の開陳を要素として加えつつも、シンプルな物語で楽しませてくれるところがいい。オーバーマンのオーバースキルも楽しいし、その登場の仕方も工夫されている。
第07話 鉄道王キッズ・ムント
ひっくり返ったユニットを引き起こすために、シベリア鉄道警備隊を利用というのが単純で面白い。大きな物語と小さな物語の絡ませ方が上手いなぁ。変な暗さもないし、ゼロ年代の前半にこれが受け入れられた理由がよくわかる。
第08話 地獄のエキデン
体育祭と戦いが同時に起こっているという状況を描いた回。戦争モノでたまに見かけるパターン。ただし、その対比をしつこく描くという事はなく、あくまでカジュアルな感じでやっている。はっきり言ってしまえば、今回も中だるみ系の回。物語が前に展開しないこの手の空気系の話が好きな人が増えたから、ゼロ年代の『けいおん』的なアニメは量産されてんだろうねぇ。『ナディア』の島編みたいな。
第09話 奮闘! アデット先生
アデット先生という強い女性教師が登場して、学園ドラマ風の展開に。この人、シベリア鉄道隊にいた人だね。この回で、「ゲームは得意なのに、なんで人間関係は苦手なの?」と言う台詞があり、「人間関係もゲームと同じよ!」という風に続いた。なるほど、こういう言葉にゼロ年代の決断主義的風景を見たのかもしれない。
第10話 アスハムの執念
ゲイナーが女装する回。ボクシングのシーンもあったが微妙。ゲイナーが「何で主義者だけでエクソダスをやらずに、周りの人まで巻き込むんです」っていう台詞を言っていた。このあたりも意味深いな。つか、そういう風に見ていけば、何でもそうか。エクソダスの意味とか役割が重層的になってきた。前回までの空気回と違って、ちょっと熱い感じになってきた。
第11話 涙は盗めない
アデット先生がかなりいい味出してるな。この人のおかげで物語が動いているとも言える。アスハムのオーバーマンのオーバースキルは「盗む」。この発想は凄いなw これがアリなら何でもアリだし、最強な気もするのだが、そうならないところも面白い。
第12話 巨大列石の攻防
なんか、すごいオーバーマンが出てきたw ミーアの街でアスハムらと戦闘。シベリア警備隊が時代に翻弄されながら迷走しているところとかは面白いけど、戦いの展開がちょっとワンパターン化。新しいタイプのオーバーマンが出てきてよかった。ブラックホールってのは凄い。
第13話 ブリュンヒルデの涙
オーバーマンのアーリータイプは進化している。生物っぽい。ブリュンヒルデの操縦室に閉じ込められたアスハムとサラ、進化するブリュンヒルデ。こういう構図の中で、エクソダス組とシベリア警備隊が戦っている。重層的で素晴らしい。オーバーデビルというキーワード登場。
第14話 変化! ドミネーター
不定形のゴーレムを操るシンシアというキャラが登場。彼女はゲイナーのゲーム仲間。『エヴァ』でいうところのアスカだったり、『エウレカセブン』のアネモネだったりするのかな? トラウマがあればの話だけど…。シンシアがセントレーガンの正規軍をボコボコに。シンシアとゲイナーの戦いで、中村豊の神作画きたー! しかし、ユニットが氷の切れ目に落ちて崩れるところを、オーバーマンが助けるところとか、演出うまいなー。あと、オーバーマンの右腕だけを持っているゲインの設定は糞かっこいいね。
第15話 ダイヤとマグマの間
ゲイナーとシンシアのデートをつけるという話。この手の展開って昔からよくあるが、普通に考えてかなりの異常行為だよなぁw デートの待ち合わせをした駅の描写はなかなかいい感じだった。後半は地下での戦闘。話も大きいし、内容も充実してる。さすがだね。
第16話 奮戦、アデット隊
アデットが引っ掻きまわす回。シベリア警備隊と今は敵となったアデットが正面衝突。新敵のオーバースキルは幻を作ること。屈託ない明るさに支配されている。大きな物語の上でドラマが展開されているのだが、何というかそこをあまり意識させることなく、深く踏み込むこともなくやっている感じ。富野自身が「明るく〜」って言ってたわけだから、これでまぁいいんだろうな。
第17話 ウソのない世界
アデット隊はすっかりエクソダスの自警団になって活躍しているという状況。シベリア警備隊にオカマの新キャラ登場。相手の心の中が聞こえるオーバースキルの使い手。この発想は普通のロボットアニメを軽く飛び越えていて凄いな。しかも、それの対抗の仕方が、心の声を掻き消すためにゲイナーがサラに愛の告白をし続けるというw しかもそれが街中の人に聞かれていたという。
第18話 刃の脆さ
不安感を煽るオーバースキルとか、もはや科学的根拠も全くないw やりたい放題w いいなぁ、こういう自由な感じ。過激に他の氏くを突き詰めて、こういうところに行き着いちゃったんだろうなぁ。ガウリ隊長が謀反するも、ともかくハッピーエンドで幕。アデットのキャラが強すぎる。あと、物語も強くて、ゲイナーとサラの恋愛あり、ガウリ隊長がゲイナーの母を殺した事実が明かされたりといろいろなフラグが立った重要な回でもある。しかし、作画的にはかなり辛い回だった。DVDでは直っているのかもね。
第19話 リオンネッターの悪夢
ウパ様みたいな新キャラ登場。エクソダス阻止を引き受ける仕事人。カエルとかナメクジを巨大化するとか無茶すぎるw それでアデットが気持ち悪がるとか、カラッとした印象。人の心を読んで、一番嫌なものを映し出すとか、次第に心の領域にも踏み込んでいるところがいいね。その裏でエクソダスを巡る攻防が行われていて、大きな物語もちゃんと描いている。ところで、エクソダスって何なんだっけ?w
第20話 カテズで勝てず
今回の主線の描き方、ちょっと違うところあるな。フルアニメっぽい動きするのとか。天才戦闘美少女・シンシアが再び登場。『エウレカセブン』で言えば、アネモネの位置づけで、近年のアニメでは必ず登場するタイプ。『エヴァ』のアスカとか。
第21話 オーバーマンの闇
現実とゲームの区別ができてないシンシアとゲイナーが敵同士で、対話に向かうというある意味で近年の中二病的アニメで最もよくある展開。この作品が作られたのはゼロ年代最初期なので、エヴァの想像力を直に受けて、それに応答した初期の作品になるのかも。そういう意味では、富野由悠季氏ってさすがだなと思う。エクソダスに意味を感じないとゲイナーが発言したり、大きな物語と小さな物語がいよいよ邂逅し始めてクライマックスに向かう展開へ。
第22話 アガトの結晶
シンシアがかなりキーキャラクターになってきて、エンディングに向かっての疾走感を出している。アスハムもここで脱落っぽい。オーバーデビルの存在が予告されて、次に大きなことが起こるぞ…みたいな雰囲気を演出する回で、悪く言えば、それだけ。ゲイナーに捕まるサラの手がギュッと強くなって、少し二人の距離が縮まったところが伏線としてはいい感じだった。こっちが本編という人もいるしね。
第23話 復活のオーバーデビル
大きな戦いにグラインドしている。シンシアが未だにキー(オーバーデビルの復活)になっていることは変わらないが、そこからエクソダス全体の話になってきた。凍土となっている大地のネタバレも含みつつ、物語が加速する一歩手前。ゲイナーがどういう風にここから復活するかということも鍵になっているようだ。
第24話 オーバーマックス
オーバーデビルとの最終決戦で、キングがゲームのようにやって勝った。ここで、宇野常寛氏の日頃の言葉が急激に直結された。よーするに、厳しい現実にベタに立ち向かってはプレッシャーが強くキツい。だから、ゲームだと割りきって対処することで、リラックスすることができいい結果が出ると。「決断主義を超えて…」というあたりの考え方は、このあたりのコンテクストをちゃんと抑えておかないといけなかったんだな。なるほどね。
第25話 氷の中で
エクソダスという大きな物語が別レイヤーで動いていて、その上のレイヤーで個々の物語が動いている。クライマックスの1つ手前だが、その構図は大きく変わっていない。ゲイナーも取り込まれて、みんなオーバーデビルの側に取り込まれていくなか、その状況から脱出する方法が愛の力だという。
第26話 ゲインオーバー
最終話で、主人公のゲイナーとかサラなんかがオーバーデビルの力で敵側に回ってしまっている状況って凄いなぁ。安易なカタルシス回避か。オーバーデビルのくだりが終わって、ひとまずそのレイヤーの物語は大団円で終了。この作品自体もそこで終了するわけだが、エクソダス自体はまだこれからも続くという、偽史的な想像力は残している。角川系ってこういう展開好きだね。まぁ、面白かったんではないでしょうか。
Posted by Syun Osawa at 02:30