bemod

2010年11月20日

政治少年死す

大江健三郎/1961年/『文學界1月号』より/文藝春秋/A5

政治少年死すこの小説を読みたくて、結構長い間ヤフオクで奥崎健三の『宇宙人の遺書』や鹿砦社編集部の『スキャンダル大戦争2』などを探していたりしたのだが、大森望氏がニコ生の放送中に「今はネットで読める」と言ったのでググッてみたら一番上のページに掲載されていた。知らなかったよ…。合法なのかどうなのかはわからないけど(つか違法だろうなw)、特に削除される様子も無い。いわくつきの作品だから著者もスルーしているのかもしれない。

この小説は以前読んだ『 性的人間 』の中の一編「セヴンティーン」の続編らしい。前作からしてそうだったが、世の中と上手く折り合いをつけられずに生きている右翼の少年が、天皇や日本という大きな物語へ自分自身を没入させていく様を描いている。

で、感想。

ノーベル文学賞受賞作家に対して、文学もろくに知らない素人の僕が意見するのははばかられるが、何と言うか「非常に惜しい!」って感じの内容だった。90年代以降にも小林よしのりの『戦争論』なんかに影響を受けて保守にハマった人やら、嫌韓を前提に排他主義、差別主義的な振る舞いをする人やらがいて(すぐに「売国奴」とか言う人たちね)、そういう現代の若者にも通じるような普遍性をもったキャラクターを作り出している点はさすがだと思う。

そのキャラクターの描き方がなかなか攻撃的なため、「こういうダメな奴が妄想をこねくり回してネトウヨになりますm9」みたいな捉え方もできてしまう。だから、見る人が見たらかなり腹立たしいキャラクター像に感じられるかもしれない。ただ、個人的にはある一面は上手く捉えているように思ったりもした。

僕が惜しいと感じたのはこうした輪郭の部分ではなく、後半の主人公の思想ついてだ。主人公は天皇と自分の関係性を妄想の中で何度も何度もこねくり回し、リアルと妄想をつないでいる自意識の橋をグラグラと揺らがしている。その揺らがせ方や、その後の思考の展開の仕方が妙に頭が良く感じられて、僕が肌感覚で感じているものとは違うように思ったのだ。

このモヤモヤした気持ちをここに書きとめておきたいのだが、文才のなさゆえにそれは無理っぽい。よーするに、「何となく合ってるけど、微妙に違うんじゃね?」ってことが書きたいのだ。左翼がロジック、右翼が感情で考える傾向が強いとしたら、この主人公の少年はどこか冷静にロジックを操っているようにも見える。また、一直線な指向についてもやや単純化しすぎているように思った。

Posted by Syun Osawa at 12:25