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2011年01月14日

お葬式

監督:伊丹十三/1984年/日本

お葬式この映画は伊丹十三の監督デビュー作であり、出世作である。デビュー作にもかかわらず、いきなり完成度の高い作品で、すでに伊丹ワールドが全面展開されている。

僕はこの映画を見たのは二度目だと思う。かなり昔に見たので内容のほうははっきりと覚えていなかったのだが、山崎努が愛人と葬式を抜け出して、屋外でセックスをするシーンは強烈に脳裏に焼きついていた。あの愛人のだらしない体の生々しさは僕には相当衝撃的だったのだ。

しかも、セックスの最中、それを知らない妻の宮本信子が丸太で作られたブランコで揺られるというベタな隠喩をカットインさせるなど、演出が決め細やかで見応えがあった。

ミンボーの女 』の後に続けて見たこともあって、この作品のテーマとなっている「葬式」の優れた教材ビデオのようにも見えてしまった。事実、この作品では「葬式をどのように取り行うか?」という誰もが知っているようで知らない疑問に、ドラマを通じてこたえている。普通に映画を見ているだけなのに、しっかり葬式についても学べてしまうという実にお得な映画に仕上がっているのだ。

ただ、それだけでは本当に良くできた教材ビデオということになってしまう。でも伊丹作品は時代の空気感を上手く取り込んでいて、そこに醸しだされる人間の業の深さをよく映し出している。だから彼の作品には社会性があるのだ。香典のお金が風に舞い、それに群がる葬儀の参列者たちの振る舞いはその典型的な例だろう。あのシーンはコメディであるからこそできるベタな演出だと思うし、それを取り入れることで資本主義社会の無常感をより効果的に表現していたように思う。

ところで、この作品は葬式をするというだけの話なのだが、その舞台をなぜ山奥の別荘にしたのかはよくわからないままだった。逃げられない場の設定として帰納法的に選択された舞台なのかな?

Posted by Syun Osawa at 00:45