2011年01月27日
催眠術のかけ方 ― 初心者からプロまで今日から使える
林貞年/2003年/現代書林/新書
一柳広孝『 催眠術の日本近代 』に続いて催眠術の本を読んだ。Amazonで催眠術の本を探してみると、プロの催眠術師が催眠術の方法をレクチャーした本は数多く出てくる。その中からあまり深く考えずにこの本を選んだのだが、催眠術のかけ方が超具体的に書かれており、なかなか刺激的な内容だった。Amazonのレビューでもなかなか評価が高い。
この本では催眠術のかけ方が経験的な知見によって書かれているため、「Aをすれば、Bとなります」と書かれていれば、ただ納得するほかない。ときどき、その方法に対する根拠を科学的に説明しているような箇所もあるが、「とにかくそうなるんだ」という経験のパワーの前ではそういう後付けの根拠はかすんでしまう。だからニセ科学的なアプローチでこの本を読んでもつまらないだけだろう。
むしろ僕が感心したのは、著者の催眠術のかけ方が極めて繊細で細やかなことだった。相手との信頼関係やコミュニケーションの度合い、緊張状態などを勘案しながら、相手が催眠状態になるように誘導していかなければならず、これは結構難しそうだ。よくテレビでタレントが催眠術をかけられているのを見かけるが、あれも本当にかかっている場合と、放送で使ってもらうためにわざとかかった振りをする場合があるようで、こういったものを見極めながら、相手を催眠状態にもっていかなければならない。著者はそうした擬似催眠状態についても留意しており、相手がどの程度催眠状態にあるのかを確認するためのチェック項目をいくつも設けながら、深い催眠に誘導していた。どんな状況でも相手を催眠状態に持っていくためには、かなりの熟練の技が必要なようだ。
で、僕の関心領域である「依存ビジネス」と催眠術の手法がどの程度関わりを持つということについてだが…。こちらはまだちょっとよくわからない。というのも、催眠術というのは、その人の無意識に働きかける術で、自分では気づいていないけれど本当は思っていることを引き出すことに主眼を置いているからだ。人の無意識をどうして他人がわかるのかよくわからないし、テレビだと「あなたはアヒルになります」とか言って動物の動きをさせているから、必ずしも本人の願望が表出しているわけでもないようだが、ともかく催眠術をかけられている人の主体的なアプローチがないと催眠術は成立しない。
つまり催眠術は、かけられている本人が、自分自身に自己暗示をかけることで成立する術なのだ。お墓の近くを歩いているとき、「後ろを誰かがついてきているんじゃないか?」と考えると、急に怖くなってくる。これは自分で自己暗示をかけているわけだ。催眠術はこうした自己暗示を他者が誘導していく術だと考えていいのだと思う。よく悪徳商法なんかでも、相手の長時間にわたる説得によって、だんだんその商品を買わなくてはいけないのではないかと思ってしまう人がいるが、あれも同じような類の自己暗示を自分自身でかけてしまっているのだろう。
そう考えると、依存ビジネスと催眠術はわりあい近いところにあるのかもしれない。悪徳商法も、高級ブランドも新興宗教も、今だったらAKBのメンバーがオークションに出品する私物なんかも自己暗示といえばそうなのかもしれないし、そういったものに価値を感じる感情をシームレスに誘導してやるための技術として、催眠術は案外有効なのかもしれない。
ところで、この本を読んでいて素朴に思った疑問なのだが、催眠術によって相手の腕を上がらなくしたりすることに何の意味があるのだろう。そもそも「なんで催眠術をかけるのか?」というところは案外はっきりしていないため、結果的に、出てくる最適解がエロ目的になってしまうというのは仕方が無いのかもしれない。電気屋で売ってるビデオカメラだって、恐らくは子ども撮るか、旅行先の観光名所を撮るか、恋人同士でハメ撮りビデオ撮るかくらいしかほとんどの場合は使われていないだろうし、目的のないものってのは、大抵そうなるよね。
Posted by Syun Osawa at 16:34