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2011年04月24日

不合理だからすべてがうまくいく

ダン・アリエリー/訳:櫻井祐子/2010年/早川書房/四六

不合理だからすべてがうまくいくマッテオ・モッテルリーニ『 世界は感情で動く 』に続いて、行動経済学の本を読んだ。行動経済学は無感情で効率的に動く人間を前提とした古典的な経済学とは少し異なっていて、人間が実際にどう行動するかという経験則を学問の中に取り込んでいる。

この時点でかなりの胡散臭さはあるわけだが、数年前にオンライン証券に口座を作って以来、人の感情というのは無視できないばかりか、かなり重要な位置を占めていると考えるようになった。というのも、市場の株価は、日々のニュースの影響を受けて大きく上下動を繰り返すからだ。

世界は感情で動く 』では、人は感情まかせで行動するほうがストレス負荷がかからないために、多くの人が同じような行動をしてしまうと書かれていた。これは非常に納得できる話だ。本書でも、人がいかに感情に基づいて行動しているかが実験例を用いて説明されていた。

例えば、ホットケーキミックスに卵は含まれていないが、あれは卵入りの粉と水を混ぜるよりも、粉と水に卵を加えて混ぜるほうが売上が伸びるためらしい。効率性を考えれば、卵が入っていたほうが便利なのに、卵を加えるという1工程が加わっていたほうが、料理を作っているという充実感を抱きやすいのだそうだ。この場合では、作業工程が増えるほうがストレス負荷が少ないということになる。

ほかにも、バーチャルデートのアーキテクチャの話やユダヤ教の法律の話など、サンデルのコミュニタリアン的な話と感情との結びつきを考えさせられるような内容もあった。リベラリズムとコミュニタリアニズムは、行動経済学とも高い親和性があるように思うので、これらの話もなかなか面白かった。

ただ、なかには、ゴキブリが一匹で迷路に入れた場合と、たくさん入れた場合では、たくさんで入れた場合のほうが時間がかかるという例も紹介されていて、これなどはかなり胡散くさい。著者は、ゴキブリをたくさん入れた場合のほうが、お互いの視線を気にして正確な行動を取れないのではないかと推測していたが、はたしてゴキブリにそんな自意識が備わっているのだろうか。

自意識といえば、本書はわざと著者自身の自意識(幼い頃の体験談やコンプレックスなど)を吐き出す形で書かれている。その部分が強すぎて、考察の際に、多角的な視点で考える契機を失っているのではないかとさえ思う。もちろん、行動経済学においてはこうした書き方も一つの特色なのかもしれない。ともかく今回は、マッテオ・モッテルリーニ『 世界は感情で動く 』に続いて外国人の著者の本を読んだので、Amazonで良書と評価の高い友野典男『行動経済学 経済は「感情」で動いている』あたりを読んでみようかなと思う。

Posted by Syun Osawa at 10:23