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2011年06月01日

食の安全と環境

松永和紀/2010年/日本評論社/四六

食の安全と環境「地球と人間の環境を考える」シリーズの1冊として出版されたこの本のサブタイトルは、「「気分のエコ」にはだまされない」だ。空前のエコブーム(もはやブームというよりは、社会全体の規範にすらなりつつある気もする)に水を差すようなこの言葉から、即座に地球温暖化懐疑論などを連想してしまうかもしれないが、あの手のカウンターゲームのためにこの本は書かれているわけではない。

この本では、エコに食いつく消費者たちの有機野菜への過剰な信頼や、保存料に対する嫌悪が、食の安全や環境を守るどころか逆に脅かしている可能性があるということを、実証できるデータをもとに丁寧に解説している。例えば、加工食品に保存料を使用しなければ腐敗が早く進むために廃棄が増える。ただでさえ日本は食料の廃棄割合が高いのに、このエコブームによって廃棄割合がさらに高まってしまう可能性さえあるのだ。

また、食糧問題も深刻だ。特に耕地面積の少ない日本では、少ない農地でより多くの作物を育てる必要がある。そのためには害虫駆除のための農薬散布や品種改良を無視することはできない。「ナチュラルな生活」と書くと響きはいいかもしれないが、その内実は自分勝手なエゴかもしれない。その可能性について考えるためのきっかけを与えてくれる素晴らしい本だと思う。

ちょっと回りくどい書き方なのは、そのことについて、素人が正しい知識を持つことが難しいからだ。著者自身も前著『 メディア・バイアス ― あやしい健康情報とニセ科学 』の中で、学生時代には自分自身が批判しているエコブームに対して肯定的な意見を持っていたと書いている。京大農学部で大学院まで行っている著者からしてそうなのだから、素人の僕が気づくはずもないのである。

Posted by Syun Osawa at 21:30