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2012年06月20日

空飛ぶタイヤ

池井戸潤/2008年/実業之日本社/四六

空飛ぶタイヤシャイロックの子供たち 』を読んで「面白い」とつぶやいたら、池井戸潤さんの事務所の方が『 シャイロックの子供たち 』は池井戸が最も気に入っている小説だという主旨コメントをくれた。そのときに『BT '63』を薦められたのだが、『空飛ぶタイヤ』が彼の著作の中でも特に話題になった本ということもあって、先に読むことにした。

シャイロックの子供たち 』同様にサラリーマンの悲哀がとてもよく描き出されていて、まるで自分のことのようにキャラクターに感情移入しながら読んでしまった。自社のトラックがタイヤ脱落事故によって死傷者を出し、倒産の危機に陥るという状況下で人はどのような行動に出るのか。この部分が他人事のようには思えなかった。

例えば、会社が倒産の危機に陥ったとき、若手のホープだった課長はさっさと辞めてしまう。その一方で、今まで人付き合いも悪く生意気だと思っていた整備士が事件解決のために重大な役割を果たす。普段は覆い隠されている人の心の中心部分が、ピンチに陥ることで露になってくるのだ。

社会というのは人とのつながりによって成立しており、そこにはコミュニケーションが介在する。特に日本ではこのコミュニケーションを調和の方向に、悪く言えば事なかれ主義の方向に働かすような空気が充満しているように思う。そうした空気の中にタイヤ脱落事故が投げ込まれたとき、その空気を元に戻すことを優先する人と、事故に真摯に向き合う人とで温度差が生まれてしまう。そして、この温度差こそが普段、調和のコミュニケーションによって覆い隠されている同じ顔をした人々の人生観の多様性なのだと思う。こうした状況下で僕ならどういう行動に出るだろうか? そんなことを深く考えさせられる小説だった。

Posted by Syun Osawa at 23:25