bemod

2005年03月01日

マンガと「戦争」

夏目房之助/講談社/書籍

マンガと「戦争」著者本人があとがきで「相当恣意的な文脈にならざるをえなかった」と書いている通り、かなり強引な本だった。彼の提唱する〈マンガ表現史〉というのを僕はよく理解していないのでたいしたことは言えないけれど、例えば

〈『イガグリくん』にしても白土忍法にしても、マンガ表現史としてみれば、手塚の開発した手法の上にはじめて成り立ったということだろう。〉

ってどうなの? これ以外にも「宮崎駿は手塚の継承者」とか、典型的な「何でも手塚」の手合いに映ってしまう。戦争マンガを時代と対応させて論じていくという試みはとっても面白いと思ったし、そこで語られる60年代、70年代はそれなりに読めた。だけど、彼が「内向していく」と語った80年代以降のマンガと「戦争」のイメージは、恐らく団塊の世代やそれ以前の人たちが「こうにちがいない」と思っている一方的なイメージの押し付けという気がする。どうもこう、目から鱗が落ちたという風にはならない。

また「戦争中の翼賛的なマンガ」というくだりだって、『 まぼろしの戦争漫画の世界 』を読むと戦争マンガが多く刊行されたのは戦中ではなく戦前(もちろん何をもって戦中というのかは判断の分かれるところだが…)だし、そのほとんどが(中国やアメリカを連想させるとしても)虚構の戦争を扱っていたわけで、プロパガンダ一本で押し通すのはやや苦しい。

あと何とかならんもんかな、欧米に対する自虐意識。このヘタれた意識を世代の話に持ち込むのは嫌だけど、欧米への憧れが人格形成に決定的な人たちは、悲しいくらい欧米と日本を相対化し続ける。それはもうこの本を読んでも間違いないみたい。ただ、それはあなた達の世代だけが共有している意識だという事にしてほしい。困ったもんだ。

(関連)戦争と芸術

Posted by Syun Osawa at 22:18