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2005年11月15日

ブリューゲル(アート・ライブラリー)

キース・ロバーツ/訳:幸福輝/西村書店

ブリューゲル森アーツセンターギャラリーに『 レオナルド・ダ・ヴィンチ展 』を見にいったとき、その下階のギャラリーショップでブリューゲルとヒエロニムス・ボスの絵画に登場するキャラクターのフィギュアが売られているのを見た。これがかなり可愛い。そんなつながりで画集など…。

非現実的なキャラクターともっさりした田舎臭い風景が実にいい味を出してます。今から500年も前にこんな凄い絵を描いていた人がいたんですねぇ。一人一人のキャラクターの動きが個性的で、500年前の田舎の人間模様がとても生々しく感じられます。

彼が生きた時代は、宗教改革でルター派やらカルヴァン派やらイギリス国教会やらが出てきた時代。守旧派のローマ教会も一段と粛清を厳しくするなど魔女狩りが花盛りで、人が簡単に処刑されていた。ブリューゲルの住んでいたフランドルの村はスペインの占領下で、ローマ教皇派による異端審問が凄惨さを増していた。彼はその頃の様子を、スペイン軍が幼児を殺している《嬰児虐殺》などは当時の人間の愚かさを田舎の村にある日常の風景として描いている。

《嬰児虐殺》(C)ブリューゲル(1565-1567年)
《嬰児虐殺》(C)ブリューゲル(1565-1567年)

ビデオ『世界の美術 ブリューゲル』(日経映像/テレビ東京)を見ると、その頃の魔女狩り的な粛清の事を憶えている人は今も多いようだ。地元の人はブリューゲルを、その時代の苦しい農民達の様子を描く抵抗の画家と捉えられているようで、今でもブリュッセルでは毎年ブリューゲル祭りが開催されているそうな。

ブリューゲルは田舎の美しい風景の中に見え隠れする、動乱の余韻をヒエロニムス・ボス的な寓意に託したり、また俯瞰した背景の一部として描いている。キャラクターの可愛らしさとは裏腹に、その内側に託した社会に対する思いは冷静だ。このあたりは僕の中ではわりと重要で、厭世気分を「辛いよ!辛いよ!」とダイレクトに表してるわけではないところがいい。この絵に描かれている戦争画は当然のことながら、プロパガンダではあり得ない。

ちなみに《雪中の狩人》を見ると、凍った田んぼの上で村人達がスケートを楽しんでいる。その中にカーリングをしている子供達がいる。カーリングは15世紀にスコットランドで始まったそうなので、普通の遊びだったんでしょうね。

あと、彼は1569年のある日、世界を逆さに見ようとして、股の間から覗こうとした時に、心臓発作かなんかで死んだと言われている。

(関連)戦争と芸術

Posted by Syun Osawa at 21:48