bemod

2006年07月04日

「経済人」の終わり

P.F.ドラッカー/1997年/ダイヤモンド社/四六

「経済人」の終わり読み応えありまくりの本だった。

この本の著者は経済に関する本で有名な方。ところがなぜか処女作は全体主義についての本だった(つまりこの本)。興味深いのは、この本が書き始められたのが1933年で、出版されたのが1939年4月である点だ。つまり第二次世界大戦が始まる5ヶ月前である。

戦後の後出しジャンケンならいくらでも優秀な人が語っていると思うんですけど、戦前にこれだけスッキリと全体主義について語っている本ってそんなに多くはないんじゃないだろうか? とにかく簡潔、明瞭、わかりやすい。

まず、ファシズムの隆盛の最大の原因をマルクス社会主義の失敗としているところにひかれた。ここで言う失敗とは、ヴィーリ・ミリマノフ『 ロシア・アヴァンギャルドと20世紀の美的革命 』(未来社)で指摘されていたロシア・アヴァンギャルドの終り。つまり〈ユートピアの終焉〉のことである。

失業という魔物をマルクス社会主義は退治することができなかった。そこにあらわれた魔法使いとしてのナチス(本当にそう書いてある)。大衆は、今度こそ奇跡が起こるに違いないと思ってナチスに乗っかった。

著者はこの状況を冷静に眺めながら「軌跡なんか起きないよ」と言っている訳ですな。そして、ナチスのプロパガンダは、大衆がその魔法から解けないようにするために行なわれる。つまり、プロパガンダってのは絶望の淵に立たされた貧乏人にのみ有効なもので、そんな貧乏人が信じた奇跡に真実味を与えるものに他ならない。うんうん。なんかいい感じ。

さらに、マルクス社会主義とファシズムは、結果として同じであると言い切っているところも興味深い。ヒトラーとスターリンに共通性を見出し、両者が手を組むことの危険性を指摘している。

現実にはナチスはソ連を侵攻し、それが痛手となり崩壊を早める結果になった。しかし、実際に手を組んでいたらどうなっていたか? このあたりのことを考えると、著者はなかなか先見性があるというか、時代の捉え方に説得力があるなぁと思った次第。

ナチスとスターリン時代のソ連について、両者が推進したプロパガンダ芸術を目的美術として考えたとき、この本の中に書かれていた時代の捉え方というのはとても的を射ている気がする。とりあえず今の段階では、この人の話を信じてみようと思う。

読み応えがありすぎて、このまま図書館へ返すのが惜しい。古本屋で見つけたら買い直そう。

(関連)戦争と芸術

Posted by Syun Osawa at 00:08