bemod

2007年01月26日

日本美術事件簿

瀬木慎一/2001年/二玄社/四六

日本美術事件簿恥ずかしながら作者の名前を「事件簿」シリーズでしか知らなかったんだけど、どうやら昔から美術界で活躍している偉い人らしい。

この本を読んで、新たに知ったことをいくつか。

まず、天皇の肖像画について。「徳川幕府の崩壊とともに長い空白期間を経て復権した天皇という存在の珍しさから、絵画に写真にと描写されることが多く、政府もまた、それを一種の宣揚の意味もあって歓迎した。」とある。聖徳記念絵画館 へ行ったときには、天皇の顔が意図的に隠されているものと堂々と描かれているものがあった。描いたほうがよいのか、描かないほうがよいのか、それはどちらの方がより「権威的な表現か」ということに依存していたように思う。

ほかにも、竹久夢二をはじめとする数多くの画家を手玉にとったお葉の話や前衛画家から戦争記録画家へ転向したといわれる福沢一郎の話など興味深いものがいろいろあった。美術の歴史はこういう猥雑な話で勉強するのが一番面白いな。

ところで…。

以前、小谷野敦さんがブログの中で盗作画家として話題になった和田義彦さんと本書の作者である瀬木慎一さんの関係について触れられていたことがあった。瀬木さんはそうした怪しい画家の態度をどのように見つめているのだろうか? 本書に古瀬戸の偽物「永仁の壺」で疑惑の渦中にあった唐九郎(と、魯山人)の章を以下のような言葉で終えている。

職人が職人を超えようとして超えきれず、先輩の魯山人についに勝ちえなかった悲劇、という思いが強く残る。しかし、世間は不思議なもので、この事件をきっかけとして彼の技術についての評価が逆に高まって、ついに芸術院会員にも何にもなれなかったが、その晩期には「名匠」のタイトルが冠せられるに至ったことは、周知のとおりである。それがかならずしも不名誉とは私には思われない。

僕も思わない。

(関連)戦争と芸術

Posted by Syun Osawa at 22:57