bemod

2007年01月30日

芸術とスキャンダルの間 ― 戦後美術事件史

大島一洋/2006年/講談社/新書

芸術とスキャンダルの間和田義彦さんの盗作事件が影響してか、今年に入って美術界のスキャンダル扱った本がいくつか出版しているみたい。この手のスキャンダル本は、美術評論家の瀬木慎一さんが『 日本美術事件簿 』などの本を数冊出しているし、贋作関係の本はこれまでもたくさん出ているので知っている人にとっては珍しくない話ばかりなのだろう。

僕は知らない人。贋作関係の事件がこんなに多いとは知らなかった。

贋作があるということは、それをつくった人がいるわけで、その人は真作に近いクオリティの作品を作り出すことのできる力のある人である。本を読んでいると、真作より劣ることが贋作の理由になっているものもあるが、では真作より優れている場合はどうなのだろうという疑問も沸く。本来、模写は悪いことではなく、多くの有名画家も習作として模写を描いている。それを真作と称して高く売りつけることが問題なのだとしたら、それはクオリティの問題ではなく金の問題である。

贋作者は描いた絵を自分のオリジナル作品だといわず、わざわざ他人の作品だと言うわけで、近年の「パクリ」騒動とは逆のベクトルが働いているわ。作品のオリジナルリティについて、贋作者は自己主張しない。このあたりが興味深い。

工房を持っている画家が弟子たちと共同で作った作品はどうか? そのあたりは、この本ではあまり言及されていない。漫画家・本宮ひろ志さんのようにキャラクターの目以外をアシスタントに描かせて、最後に自分のサインを入れたような作品はどうなるのだろう…。

投機の対象として、もしくはコレクターとして絵を集める趣味がないので、この手の事件がどれだけ数多く存在しても僕のような貧乏人にはいずれにせよ関係のない話だ。もしも美術館で見た絵が贋作だったとしても、(少なくとも僕にとっては)少々がっかりする程度の話である。

(関連)戦争と芸術

Posted by Syun Osawa at 22:33