bemod

2007年08月25日

海野十三戦争小説傑作集

海野十三/2004年/中央公論新社/文庫

海野十三戦争小説傑作集当たり前の話だが、海野十三の戦争小説は戦前、戦中に書かれている。そのことを念頭に置くとフィルターがかかりすぎて、小説の楽しみ方を誤るのではないかと少し不安だった。

では、戦争小説の楽しみ方とはなんだろう?

あるかもしれない架空の戦争を妄想する。これは楽しい。では、実際に起こっている戦争を物語の舞台にするとどうなるか? 「空襲下の国境線」はロシアとの国境線付近での戦闘を軸にしている。一斉攻撃に参加できなかった3人のパイロットが、味方のピンチを救うべく、戦闘機に乗り込み敵のパラシュート部隊に攻撃を加えるという話。どのパラシュートも降下後まもなく死体を吊るしているというグロいオチであまり楽しめない。

では、現実の戦争を舞台にすると楽しめないのか?

日米架空戦記集成 』にも収録されていたスパイ小説「アドバルーンの秘密」などは恋愛も絡んだサスペンスで楽しく読むことができる。他にも無国籍人の金博士による秘密兵器開発の話も楽しかった。

海野十三の戦争小説の中には空襲の話が多く登場する。空襲は大本営発表の嘘とは違う現実に起こっている事柄を書いており、唯心論的なプロパガンダに彼が参画して戦争小説を書いていたとは思われない。空襲小説はエヴァともつながるSF小説の骨格を形作ってもいるし、どこまでもエンターテイメントとしての要素が強かった。

敵目線に書かれている作品については少しテクニカルな印象。敵の作戦が失敗し、やっぱり日本のほうが凄いみたいなオチに持っていかれるので、なんとも微妙な気持になってしまった。たしかにこういう作品を見ると、なにやら国威発揚の風に煽られて…という感じがしないでもない。

というわけで、僕フィルターだけでなく、作者のフィルターも戦時仕様であり、イデオロギーがにじみ出てしまう感は否めない。ただし、だからといって「戦前・戦中の戦争小説=悪」というは、やはりおかしいのだ。

(関連)戦争と芸術

Posted by Syun Osawa at 08:36