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2008年09月15日

ロシア 語られない戦争

常岡浩介/2008年/アスキー・メディアワークス/新書

ロシア 語られない戦争東長崎機関の常岡浩介さんが書いた本だということもあって、発売日に買った。常岡さんは自らイスラム教徒としてチェチェンゲリラに従軍し、ロシア軍からの空爆を受けたり、裏切り者に殺されかけるなどの壮絶な体験をしている。そのため、本書に書かれた言葉はどれも生々しく、日常の出来事として書かれる人の死に対して恐怖を感じずにはいられなかった。

チェチェン独立派はイスラム教徒であるため、9.11以降のイスラム教徒によるテロと重ね合わせられることが少なくない。ロシアのFSBはそういう世間の意識を巧みに利用して、チェチェン独立派を極悪非道なテロ組織としてのレッテル貼りしようとしているようだ。しかも、そうした情報操作に加え、カタールでの爆破事件のように直接FSB職員が行ったテロ事件まで起きており、チェチェン独立派はロシア人のナショナリズムを高めるための仮想敵としての役割も担わされている。日本でもかつては自作自演の工作はあったが、ここまで酷くはないだろう。何人もの同胞を殺してしまうようなテロ行為を自作自演するというのは、あまりに擬似セカイ系過ぎて恐ろしい。

プーチンのファシズムがヤバいことはもはや自明であり、90年代に書かれたアンナ・ポリトコフスカヤ『 チェチェンやめられない戦争 』や林克明『 カフカスの小さな国 』を読んでも十分に伝わってくる。これらの本が書かれた90年代後半といえばもう10年以上前のことになる。そして、この頃から今まで状況は少しも好転していない。アンナも殺されて、この世にはいない。これは絶望的な事態といっていい。

この本を読んだ後、Youtubeでチェチェン独立派側がアップしたテロの映像を見た。チェチェンに限らず、テロの映像はYoutubeに大量に公開されていて、その生々しさはこの本をも越えてしまっていた。コメントでもそれぞれの国の人間が罵り合ってるし、憎しみの連鎖はネットを通じてさらに広がっている。果たしてこの憎しみが消える日は来るのだろうか…。

Posted by Syun Osawa at 01:05