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2009年11月12日

ケモノヅメ(全13話)

監督:湯浅政明/2006年/日本/アニメ

ケモノヅメ(全13話)マインドゲーム 』の湯浅政明監督が手掛けたTVシリーズ。キャラクターの造形やら構図やらが昨今のアニメとは違っているのは、湯浅氏の思惑なのか、それとも『マインドゲーム』のヒットに気をよくした業界関係者が二番目のドジョウをすくいにいったのか。

湯浅監督は、『マインドゲーム』はドライに作ったと、何かのインタビューで語っていた記憶もあるので、実は後者なのかも…という気がしないでもない。ともかく萌え要素に埋め尽くされている昨今の商業アニメと、そこからあまりにかけ離れた文脈で消費されているストレンジなアニメ群(アートアニメって言われてたりする)、その間にある荒野を行きたい、という思いだけは伝わってきた。

『ケモノヅメ』では、作品を通して駆け落ちした二人の逃避行を描いている。そこで展開される「追いかけっこ」は、『トムとジェリー』などの往年のアニメ作品から脈々と続く伝統芸である。この定石化された(しかし最近はあまり使われない)演出の正面突破によって、アニメが本来持っている動きのポテンシャルが存分に発揮されていたように思う。

あとはエロか。エロ描写がかなり過激だった。あれは単純に椎名へきるにエロい言葉を言わせたかっただけなんじゃないだろうか…w それは邪推としても、キャラクターの造形的にヲタ属性な人に萌を喚起させるような図像ではないために、描写の過激さとは裏腹に短絡的な性的消費をさせていない。「女の子は可愛く描け」が漫画・アニメ業界の共通したお約束であり、その可愛さというのが定型化された萌絵を指している(僕はそういう絵を描くがw)。『ケモノヅメ』は、そこから半歩踏み出したところでエロを真面目に描こうとしていて、そういう試みはなかなかいいなと思った。その試みが成功しているかどうかは知らない。

以下、感想メモ。

第01話 初めての味

絵はかなり好み。前半ちょっと語り多すぎかも。後半は結構なエロシーンがあったが、この絵柄だとOKということなんだろうか? 昨今のアニメとはまったく関係ないアサッテの方向なので、とても楽しみ。ただし、浜辺のシーンで波の動画を丸々実写を使用するのはどうなのか。

第02話 辛酸の決別

愧封剣の師範であるトシヒコとその義理の弟カズマが跡継ぎ問題を抱えている。食人鬼との戦いが続く中、あろうことかトシヒコは、人間に化けた食人鬼に恋に落ちてしまう。そして、父親が食人鬼に殺されて死ぬ。最後に女が食人鬼であることが周囲にもバレたが、トシヒコは彼女と共に逃げてしまう。予想外の展開。いいねぇ。

第03話 しょっぱい新月の夜

二人の逃避行とその追っ手という状況を引きずった回。さてこれからどうするのか? どうなるのか? 女はトシヒコの前でも食人鬼になる。それでもトシヒコの愛は変わらない。トシヒコは二人で新しい関係を作りたいという。その一方で、カズマは愧封剣用のロボットを用意していた。展開的にはなかなかいい感じ。会話劇のところは少し『マインドゲーム』を引きずっている感じもするな。

第04話 過去の苦み

愧封剣と食人鬼にまつわるエピソードが開陳される。内容は結構面白いのに、他のTVアニメ同様に、今回はピンチの演出が少ないな…。

第05話 女の隠し味

国の一機関から独立して組織の拡大を目指す愧封剣の人たち。その一方で、二人の逃避行は続く。小さなドラマとしては、風俗嬢をしている食人鬼に恋をした愧封剣の男の話が合った。これはそのまま、本流の由香と俊彦の逃避行に被っている。被せていると言ったほうがいいのか。この作品、結構味わい深い構造していると思うがね。俊彦が裸の由香を手錠でベッドに縛り付けるという、かなり際どいセックスの描写もあった。

第06話 辛口バースディ

オープニングで民俗学が出てきたり、『バイオハザード』のような研究者の日記も登場。ノリがちょっと角川っぽい感じになってきた。今回は由香が俊彦に動けなくするツボを打つ展開から、一気に大ピンチに陥る展開がよかった。ああいうピンチの演出は大好き。監督には湯浅氏の名前がクレジットされている。こういうジェットコースターが作れるところに湯浅監督の凄さは潜んでいるのだろう。

第07話 利江の甘い香り

利江が本気出す回。シャワーでオナニーシーンとか、ゴンドラでセックスとか。二人の逃避行が思うように行かず、すれ違い続きだったために、その隙間を突かれたのだ。というか、今回は俊彦がハーレム状態。完全にエロゲ的展開になっとるがな…。ところで、もしかしたら一馬も食人鬼だったのか?

第08話 監禁は鉄の味

いきなりベロチューとかw そして、その後に惨殺。その切り替え具合が富沢ひとし風ですな。今回はかなり食人鬼と愧封剣の対立軸が明確になってきて、全面対決の色合いが出てきた。義理の弟は、まぁ…食人鬼なんだろうなぁ。

第09話 甘い夢

俊彦と由香の逃避行再び。旅の途中で車で旅をするおじいちゃんとおばあちゃんと出会い、一緒に行動する。そこで塩湖なんかが登場して、いい感じの演出。会話劇の中で、俊彦は由香に赤ちゃんがいることを知る。結局おじいちゃんもおばあちゃんも食人鬼で、俊彦らによって二人とも倒されてしまう。食人鬼に変身しておばあちゃんを食べた由香。シンプルな展開だったが、わりかし王道のプロットをしっかりつくってるよなぁ、このアニメ。『 カウボーイ・ビバップ 』っぽい演出。

第10話 人の不幸は密の味

話がオーラスに向かって進展。大場が黒幕で、ケモノヅメを利用して愧封剣をのっとろうとしている。そして、それは日本のキーパーソンになることでもある。俊彦は大場の子どもと協力して、大場の父を倒そうとする。そういう流れ。話は悪くないな。

第11話 その雨は苦かった

食人鬼のオリジナルは由香しかおらず、彼女は大場に捕らえられている。一馬が食人鬼だったことは予想通り。大場に捕らえられている柿の木刃の娘・利江も大場にそそのかされて人工食人鬼に。

第12話 珈琲味のキビ団子

いよいよクライマックスへ向かっている。大場との最終対決。柿の木刃で肩透かしをし、一馬もアッサリ敗北。で、俊彦ってわけなんだけど、クライマックスへ向かう道が一方通行にも拘らず、そのパワーが上手く結集されてない感じもある。シュールって言うか、少しメタ的にこういう作品のクライマックスを製作サイドが捉えているから、こういう風になっているんだろうな。白けつつのる…って感じが、ちょっとだけ寂しい。

第13話 味は関係ない

大場のルサンチマンから子どもには不幸な思いをさせたくないっていう流れでの暴走していったのか。このあたりも結構ベタな流れだったな。違うのはアニメの演出、キャラクターデザイン、など見せ方の部分が大半だった。ストーリーはそれなりに起伏に富んでいて飽きさせなかったが、成長物語的に何かが起きたわけではなく、むしろ事態はややこしくなって終ったという感じ。そういうどっちつかずの微妙な流れが現在風でもあるし、「そこそこ感」が募る原因でもあるんだと思う。二人は真実の愛を貫いて大団円ということなのだろうけどね。

Posted by Syun Osawa at 00:32