bemod

2009年12月09日

ナショナル・ジオグラフィック日本版 創刊15周年記念講演会

2009年12月1日/18:00−19:00/東京国際フォーラムB5ホール

ナショナル・ジオグラフィック日本版 創刊15周年記念講演会ヤバいw 講演の進行が素晴らしすぎるw

ナショナル・ジオグラフィック英語版編集長のクリス・ジョンズ氏による講演会。わずか1時間ながら、自分の体験談あり、写真あり、映像あり、雑誌紙面の紹介ありと、その中身は非常に濃密で完成されていた。僕が 最近見に行った講演 の中で、ここまでショウ的な意味でクオリティの高い講演に出会った記憶はない。なるほど…これがアメリカ・クオリティなんだなw

『ナショナル・ジオグラフィック』自体は、過去に数年読んでいた時期があったが、公式サイト でも、結構なボリュームの記事が読めるとわかってからは、買わなくなってしまった。でもそれは僕の貧乏ゆえの問題であり、内容は今でも変わらずハイクオリティなままだ。特に詳細で美しい地図や図解は、日本の雑誌ではほとんどお目にかかれないくらいのハイクオリティなもので、同業者としても学ぶところが非常に多い。

今回の講演では、そんな『ナショナル・ジオグラフィック』の特集の中から、2008年に最も話題となった「 ゴリラ殺害事件の真相 」を題材にして、話が進められた。まず最初にキーとなる一枚の写真を、撮影者が送ってくる。それを編集部で吟味し、その写真の背後に濃密で取り上げるべきストーリーがあれば、そこから記事をつくっていくのだそうな。その取材の様子を、ナショナル・ジオグラフィック・チャンネルの映像を織り込みながら話されていた(この演出も非常に上手かった)。一枚の写真から記事を起こすというのは、グラフ誌でもお目にかかれないようなユニークな取材方法だと思う。だからこそあの雑誌の写真は異様に際立っているのだろう。

一つ意外だったのは、『ナショナル・ジオグラフィック』は取材の方針として、政治を含めてすべての立場にも立たないということをポリシーにしていたことだ。今回のストーリーならば、ゴリラに対しても中立な立場で取材を行っている。例えばアフリカの原住民の取材をする過程で、その原住民のコミュニティの中に携帯電話が入ってくるなどして、その生活様式が変化していたとしても、そのありのままを伝えることを重要視している。もちろん写真を撮るために、何らかの要求をしたりもしない。これは当たり前のようだが、日本では慣例としてドキュメンタリーであっても「演出」が多く入り込んでいるし、実際の話、天下のNHKでも「これはダメじゃね?」的な演出をしていた事例を聞いたことがある。

そういうことをしない彼らの信念みたいなものは、アルジャジーラ にも通じるもので、それをクリス・ジョンズ氏は「ジャスティス」と言っていた。僕の中で、「ジャスティス」という言葉に感じるアメリカニズムみたいなものは、ディズニー的ご都合主義だと思っていたし、それを日本語の「正義」という言葉に換言しても、嘘臭さがつきまとってなかなかスムーズに受け入れられない。これは白倉伸一郎『 ヒーローと正義 』を読んだせいかもしれない。

しかしながら、「正義」ではなく「公正」という言葉に置き換えてみればどうだろうか。そすうると、彼らが写真から浮かび上がらそうとしている事実は、決してアメリカの利得を補うためのつじつま合わせではないのだなという風にも思えてくる。もっともそのことは、写真や記事が明瞭に語っているわけだが…。

Posted by Syun Osawa at 00:36