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2010年10月24日

できる人の要約力

本間正人、浮島由美子/2008年/中経出版/四六

できる人の要約力僕はゼロ年代、『 動物化するポストモダン 』や『 ゲーム的リアリズムの誕生 』の著者である東浩紀氏に傾倒していた(一時期ほどではないとはいえ、今もわりとチェックしている)。その理由はいくつかあるのだが、イベントなどでの暴力的な要約力もその一つだ。

トークイベントなどで登壇者が難しい用語を用いて話を展開したとき、彼は「つまり簡単に言うとですね〜」と僕のような下界のものにでもわかる言葉でザックリとその要旨を説明してくれるのだ。この情報処理能力がズバ抜けていて、そのパワーに毎度感心されるのである。

そんな東氏の技術を少しでも勉強してみたいと思って、「要約力」でググッて見たら、そのままズバリのタイトルの本が見つかった。それがこの本である。この手の本は自己啓発系の本と同じで、モチベーションを上げるだけ上げといて、実は中身はほとんどない…みたいなのが多いのだが、この本はわりと要約力を身につけるための導入本として機能していたと思う。

で、要約力が身につくうんぬんとは別の次元で、例えば教材やテストを作る上でもなかなか参考になる本ではないかとも思った。PISA型テストなる意味不明なテストが流行りだしている昨今、世の中にあふれた情報をいかに処理するかということもなかなか必要なスキルだと思えるし、そのための要約力を身につける問題というのは案外面白いかもしれない。

例えば、地図を見せて、目的地までの行き方を簡潔に説明させるとか、商品の基礎情報から宣伝用のPOPを作ったり、中学生向けの説明書を作るなど、目的に応じた要約をさせるなんてのもいいかもしれない。

ただ、要約力と言うと聞こえはいいが、情報を取捨しているために、どうしても抜け落ちてしまう情報は出てしまう。結局どこに焦点を当てるのかというフレーミングの問題になってしまうので、一見うまい要約だと思っても、異なる立場の人たちから別々の突っ込みが入るという事態も十分に考えられるのだ。この力は情報社会を生きていく上で必須だと思えるが、しかし、決してベストな方法でもない。要約すればするほど大事な情報が抜け落ちていっているかもしれないという可能性については、常に心に留めておく必要があるのだろう。

Posted by Syun Osawa at 23:17