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2012年08月21日

石井光太ノンフィクション講座 第2回

2012年3月25日/14:00−17:30/青山シナリオセンター

シナリオ・センター

さくら学院の卒業ライブに行けなかったから、その代替イベントとして参加したわけではもちろんない。ノンフィクション誌『g』に掲載されていたルポで石井さんの文章が好きになり、そこからこの講座にたどり着いたのである。しかも今回は『 ドキュメント戦争広告代理店 』の高木徹さんと写真家の藤原新也さんとの対談形式の講座で、かなり僕得だった。

石井浩太×高木徹

最初はNHKディレクターの高木徹さんで、『 ドキュメント戦争広告代理店 』が書かれるまでの話をされていた。この本では、コソボ紛争においてアメリカのPR会社がセルビアを悪玉に仕立てていく様子が克明に書かれていて、その取材力の高さに驚かされる。その充実した情報量の背景には、PR会社に勤めていたジム・ハーフ氏から入手した大量の関連資料があったらしい。この資料を手に入れた瞬間に高木さんは「勝った」と思ったそうだ。

とはいえ、それを本にするのは大変な労力があったはずだ。書籍化がもともと決まっていたわけではなく、本人が直接出版社へ持ち込んだことで実現した。しかも、最初の1章は2週間で書き上げたそうな。平日はNHKでの通常業務をこなしながら、週末に文章を書くというのはかなりの労力が伴うはずで、そのバイタリティは凄いと思う。

対談の中で、どういったことを本にするのかという話になったとき、石井氏が「最初の先入観が裏切られたことを本にする」と言ったことに対して、高木氏が「先入観なしで単純に驚いたことを本にする」と言っていたのが興味深かった。

石井浩太×藤原新也

続いて、写真家で作家の藤原新也さん。藤原さんのことは 新風舎騒動 のときに知ったくらいで、あまり詳しくない。それでも、少し遅れて会場入りした藤原氏をひと目見て、すぐにこの人だとわかるような独特のオーラがあった。

講座の内容は藤原氏が処女作『東京漂流』を書くまでの話がメインだった。感心させられるのは藤原さんの行動力だ。サラリーマン特有の帰納法的な考え方で動くのではなく、自分の思うまま行き当たりばったりで演繹的に動く。これは、同じ東京藝大出身の村上隆さんと通じるものがある。物書きとしてデビューする経緯も、写真家としてデビューする経緯も、結果そうなったとしか言いようがなく、しかし、その結果を呼び込んだのは彼の豊かな感性とまっすぐな行動力に他ならない。これは目の前にある成果を掴むための最も重要な要素なのだと思う。

藤原さんはほとんどメモを取らないらしく、取材後に自分の中で組み立てたストーリーを軸に文章を書くのだそうな。記憶を掘り起こして、想像によってクリエイションしたほうが、結果として真に迫ることがあるのだ。

これを「脚色」として批判する人もいるのかもしれないが、ノンフィクションにおける脚色については今回登壇した全員が肯定的に捉えていた。というのも、事実は断片でしかないため、それを繋ぎ合わせて再構成しなければノンフィクションにならず、その構成に脚色が入ることは避けられないからだ。もしかしたら、ノンフィクション作家としての作家性はそこにこそ宿るのかもしれない。

Posted by Syun Osawa at 00:02