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2012年08月28日

戦争がつくる女性像

若桑みどり/2000年/筑摩書房/文庫

戦争がつくる女性像サブタイトルは、「第二次世界大戦下の日本女性動員の視覚的プロパガンダ」。長いこと読もう読もうと思って、ずっとテレビの前に積まれていた本をようやく読んだ。最近はアイドルを追いかけすぎて、自分のライフワークの一つである 戦争と芸術 に関する勉強をまったくしていなかった。そのため、何を主軸に書いていいのかもわからないのだが、とりあえず忘却録のために今思っていることを書いておきたい。

この本は第二次世界大戦時の日本における戦争と美術の関係、特に女性を戦争に誘導したプロパガンダ美術とその影響について具体的な例を挙げながら考察を行い、戦時中に作り出された女性像を明らかにしようとしている。僕が追いかけていた戦争記録画のほとんどが戦場で活躍する日本兵士を描いた絵だったこともあって、戦時下を生きる女性や子どもにスポットを当てた著者の視点はとても興味深いものだった。

著者は戦争記録画に描かれている女性が「強さ」と「優しさ」を兼ね備えていることを指摘している。男性が戦争に行っている間、女性が留守を守らなければならないため、これまで男性がやっていた仕事も女性が請け負わねばならなかった。そのため、戦時下において女性は優しくか弱い存在ではいられなかったのだ。その結果「強さ」の意味が拡大解釈され、女性の社会参画が進むことになり、当時の進歩的な女性たちも積極的に戦争に協力したという話である。

戦争が女性の社会進出を促し、それを絵画やポスターに描かれた女性像が日本の女性のイメージを補強したと考えれば、たしかに絵はプロパガンダ芸術としての役割を帯びていたのかもしれない。ただし、プロパガンダと言うだけであれば、敵国の兵士に女性が蹂躙されるような絵のほうがはるかにプロパガンダとしての効果はあっただろう。戦前のプロレタリア映画のように社会に蔓延する苦しみを映し出したほうが、多くの国民の感情が喚起されるからだ。

また、2005年に見に行った ベトナム近代絵画展 では、ライフルを持って戦うたくましい女性ゲリラの絵が展示されており、日本の戦争画よりもはるかに女性の強さが描かれていた。社会進出という意味では、こちらのほうがはるかに強い女性像を描いており、欧米の戦争画に近い印象を受ける。そういう意味で、女性の描かれた戦争画の多くは家父長制度を乗り越えておらず、規範的なイメージに留まっていたように思った。

(関連)戦争と芸術

Posted by Syun Osawa at 23:46