bemod

2005年10月24日

日仏絵はがきの語る100年前

秘蔵・青梅きもの博物館 梨本宮妃殿下コレクション

2005年10月1日−30日/逓信総合博物館

日仏絵はがきの語る100年前梨本宮(なしもとのみや)が生前にコレクションしていたという膨大な絵葉書の中から日露戦争を中心に一部が公開されました。絵葉書の世界ってあまり知りませんが、諷刺画とかカリカチュアの部類でかなり深い世界があるみたい。

展示されていた絵葉書の多くはフランス産。第一印象は漫画。いわゆる漫画っぽいキャラクターが線画で描かれ、動きがあって、ちょっとしたエピソードまである。例えば、大きな帽子の流行を茶化したイラスト(左上の画像もそう)なんかもそう。フランスの漫画文化の根っこはこういうところにあるんだなぁ。そりゃエンキ・ビラル『 モンスターの眠り 』に頭を悩ますわけだわ。深いっス。

あと、1900年前後に日本の画家がこぞってパリに行った理由が絵葉書からちょっとだけ見えてくる。何しろ華やか。モード全開。さらに、表現のおおらかさが戦争に対しても出ていてる。「人が死んでんねんでぇ!」という話のマジメさが欠けているといったら欠けてるが、十五年戦争期の日本と比べたら表現の自由は実現できてる。例えば、遠くで沈んでゆく船を双眼鏡で眺めている二人の男を描いた『大まかな現地報告』という作品には以下のような文章がついている。

英国人「沈んだのは明らかにロシア船だ」
中国人「なぜだい?」
英国人「私は英国新聞の特派員だぜ」

安物の アネクドート みたいな雰囲気は、妙にひかれます。

絵葉書は漫画といっても差支えが無いでしょう。例えば、日露戦争だったら、描かれている絵の背後には日露戦争という大きな物語がある。バルチック艦隊とかマカロフ中将とか東郷平八郎とかの名前が普通に出てきて、それらがキャラクター化され、消費されている。こういうのは、当然それらの名将とストーリーを知らないと楽しめないわけだから、当然それを知った上でみんな楽しんでいたんだろうね。また、日露戦争の絵葉書はパリで売られていたものが中心で、当時のフランスはロシア寄りだった。そういう流れもあり明治天皇を揶揄ったような作品も当然あるわけなんですが、それを梨本宮がリアルタイムでコレクションしているんですから、何とも不思議な感じですね。

同時開催されていた清水勲さんの講演で、西洋の反ナチス諷刺画家を何人か紹介されていた(アーサー・シイクとか)。「戦争画」の系譜で見ると、諷刺画はあまり重要視されてないようだが、大衆に届いていたという範囲でいうと見過ごせない。あと、明治の有名な諷刺画家ビゴーについて、彼が描いた諷刺画は17年間の日本滞在を終えた後、フランスで描かれていたことを知った。つまり、絵空事なんですね。日露戦争のことを描いた絵も、日清戦争時の記憶をもとに描かれているわけです。

そのほか、北沢楽天とか小林清親の作品などもたくさん展示されていた。プロ漫画家第一号と言われる北沢楽天は福沢諭吉に誘われて『時事新報』で絵画記者(そんな商売があるのか)になったこときっかけに漫画を描き始めたらしい。つーことは、職業漫画家を作ったのは遠因は福沢諭吉にあるということか。藤田嗣治が画家を目指したとき、フランスへ行く契機となったのは森鴎外の助言だったりもするので、このあたりの有名人の絡み方はドラマみたいで素敵です。

(関連)戦争と芸術

Posted by Syun Osawa at 22:35