bemod

2006年09月26日

ソ連とは何だったか

塩川伸明/1994年/頸草書房/四六

ソ連とは何だったかヒトラーとスターリンに似たところがあるという指摘はP.F.ドラッガーの『 「経済人」の終わり 』(ダイヤモンド社)でも言及されているように、第二次世界大戦より前から存在する。僕はその古いイメージをそのまま信用してしまい、プロパガンダ芸術について次のような安易なイメージを抱き続けていた。

プロパガンダ芸術を目的美術と考えれば、その背後にあるファシズムもスターリン型社会主義も全体主義としてイメージすることができる。戦前の日本における政翼賛会とプロレタリア運動も同様。つまり、右翼と左翼は似たところがあって、その全体主義的体制がプロパガンダ芸術にも大きく影響しているのではないか。

今回この本を読んだのは、そうした「全体主義」という考え方そのものが厳密な意味では誤っているらしいことを知ったからだ。同書には「社会主義と全体主義」という小論が収録されており、スターリン型社会主義とファシズムを全体主義として括るのは問題があると書かれている。塩川さんのホームページにも 「社会主義と全体主義」再論 という討論ペーパーが公開されているので、概要を把握することは難しくない。

そんなわけで、今後は「全体主義」という言葉を使うのは避けよう。全体主義の対になるのは個人主義ではなく民主主義であるので、僕のイメージする全体主義とは少しズレてしまう。言葉を変えないといけない。戦争と表象/美術 20世紀以後 というイベントで、澤田佳三さんが発表された「目的美術」の発表は、このあたりの話をしていたように記憶しているのだが、そういえば「全体主義」とは言っていなかったような気もする。

そのほか、プロパガンダ芸術とソ連の絡みでは、「旧ソ連社会のとらえ方」という小論が面白かった。ソ連崩壊への理解は二層認識ではなく四層認識で行なえというもの。以下引用。

(第一層) 理想社会という公式宣伝
(第二層) 公式宣伝は実は嘘である
(第三層) にもかかわらず、実は案外ましな面もあった
(第四層) ところが、そのましな面さえもが、複雑な逆説的連関を通して否定的な結果を招いた→だから崩壊した

プロパガンダ芸術も二層ではなく四層で捉えなおすと、より深みをもった何やらが浮かび上がってくるかもしれない。高度な広告という側面がより強くなるので、それを芸術という範疇でどのように受け止めるかはまったくわからないけど。

(関連)戦争と芸術

Posted by Syun Osawa at 00:25