bemod

2007年08月29日

ドナルド・ダックの世界像

小野耕世/1999年/中央公論新社/新書

ドナルド・ダックの世界像僕が読んだこの本は、1983年に発行された新書の復刻版らしい。

ディズニーに関する本は数多く出版されているが、その輪郭をドナルドから捉えているところにセンスを感じさせる。さすがは小野耕世。

この本の内容は大きく分けて二つある。一つは1930年代までのディズニーの足跡。そして、漫画を中心としたドナルドについて。後者はドナルドの声を担当したクラレンス・ナッシュや漫画版ドナルド作品を描き続けたカール・バークスについて言及している。特にバークスの漫画についての論考は深かった。

残念ながら僕はドナルドの漫画を一つも読んだことがないので、小野さんが書かれた粗筋から推測するほかない。何でも、バークス作品には他のディズニー作品にはみられないシニカルな表現などもあったらしい。それでも第三国の人を下に見ているような表現も多かったらしく、その点も含めて考えると、ドナルドという存在は良くも悪くもアメリカ人の擬人化といえるのかもしれない。

それがより明確なるのが第二次世界大戦時のディズニーとプロパガンダ映画との関わりである。僕は 戦争と芸術 を考える上で、この部分は今後より深く学ぶ必要があると感じている。端的に言うと、ディズニーは戦時下には経営者であった。そのため労働争議を起こす共産主義者が嫌いで、戦争になったとき積極的に軍部に協力した。『 プロパガンダ映画のたどった道 』を読む限り、この状況は当時の日本映画界とも大変よく似ている。

画家の 藤田嗣治 は戦中に積極的に戦争画を描いたため、戦後、戦争責任の矢面に立たされることになった。一方、ディズニーは戦争を通して借金を返済し利益を上げたにも関わらず、そのような責任を取ることなく世界中に夢を与え続けている。

ディズニーは戦中にかなり多くのプロパガンダ作品をつくったらしいのだが、残念なことに僕はその多くを見ていない(『総統の顔』は見た。たしかに素晴らしい作品だ)。まずは映像を見なければ話にならんな。

ところで、ジブリには労働組合って存在するんだろうか?

(関連)戦争と芸術

Posted by Syun Osawa at 00:15