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2009年07月03日

正社員が没落する ― 「貧困スパイラル」を止めろ!

湯浅誠、堤未果/2009年/角川グループパブリッシング/新書

正社員が没落する ― 「貧困スパイラル」を止めろ!この手の本が乱発されるのも貧困ビジネスですか? …と揶揄されそうなくらい最近この手の本は多い。売れているのだ。本当に貧困状態に陥っている人は金がないわけだから当然買わないだろう。とういうことは、明日は我が身かと思っている人が自己防衛のために読んでいるのかもしれない。

この本では、以前読んだ湯浅誠『 反貧困 ―「すべり台社会」からの脱出 』と堤未果『 ルポ貧困大国アメリカ 』の延長線上で対談が行われており、「正社員 VS 非正規社員」といった単純な図式は機能しないという今的な問題も含んだ内容だったのでまずまず満足。

もちろん満足と言っても、アメリカの保険料が恐ろしく高い話とか、ファンドマネージャーの平均年収が750億円な話とか、北九州で起きた餓死事件は、実は餓死と認定されていないこととか…テンションの下がる話ばかりなので、もうお腹いっぱいという感じなのだけど…。

非正規雇用の話はどれだけ「辛い、辛い」と書き連ねても、本当に貧困状態に陥った人は生活保護以外の制度がなく、企業のほうも全員を正社員化するのが難しいとなれば、現状の打開について単純な処方箋がないことは誰の目にも明らかだろう。

ただ、湯浅氏らは貧困状況に落ちいたときに孤独なホームレス化をさせないための「溜め」の再構築を試みており、この点はとても興味深かった。これは古臭い社会運動の言葉で言えば「連帯」ということになるのだろうし、新興宗教がかつて持っていた力であるようにも思う。鈴木謙介『 サブカル・ニッポンの新自由主義 』の「帰るべき場所」にも同じようなニュアンスを含んでいるだろう。

あとはイデオロギーの問題か。

本書でも日本の労働運動は政党に系列化されすぎていると書かれているとおり、その点に対するアレルギーを持っている人は少なくない(僕もその一人)。労働問題の話を聞きたいだけなのに、いつしか憲法9条の話になり、「憲法改悪」というあらかじめ用意された言葉でプロパガンダしようとされれば誰でも嫌になるに決まっている。しかし社会をより住みやすいものにしていくために町内会レベルであってもゆるやかな連帯は必要である。連帯しているのにイデオロギー無しとか有り得ないだろ?…という矛盾。なかなか難しい問題だ。

Posted by Syun Osawa at 00:55