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2010年12月19日

図解雑学 マルクス経済学

松尾匡/2010年/ナツメ社/四六

図解雑学 マルクス経済学親が社会党や共産党のシンパで、気づけば自分も学生時代に左翼活動に精を出していた…というような人なら恐らく読まない本。だって、そういう人は学生時代から不破氏の本やマルクスの著作なりを読んでいるだろうから。

というわけで、この歳になってマルクス経済学を、しかも図解で読もうという時点で左翼としては失格だろう。僕の場合は、2年ほど前に投資に興味を持ち、投資―経済学―マルクス経済学というの流れでこの本に至った。この本の前に読んだ経済関連の本は『 入門 経済学の歴史 』や『 ニューズウィーク日本版 経済超入門 』といったあたりだったので、今回の本でようやく中学生2年生レベルから3年生レベルにステップアップできたように思う。

以前、「マルクス経済学」をかじっていたという左翼系の元学生がニコ生で放送していたとき、感情や個人的な事情などはいったん脇に置いて、客観的な事実の積み重ねの中で社会を捉えたいと話していた。僕はそのとき、「左翼」という言葉についてまわるイメージが、今もほとんど更新されていないと思った。そのイメージとは、今回の本で言うところの「社会的なこと」を静的な理論によって定式化し、その定式から導き出された解をエリートから学び実践する。そうすることで、豊かな社会が築かれるというものだ。

こうした唯物史観が悪いとは思わないが、これが行き過ぎると「社会的なこと」のロジックに人間が従うことが強制されてしまう。だから僕は、自然科学の法則のような厳密さにこだわるあまりに、個人の尊厳がおろそかになるようでは、マルクス経済学なんて現実性ないじゃん…と思っていたわけだ。

でもこの本を読むと、そうした読みは一部の左翼系論者の読みであって、マルクス経済学の本筋は人重視であり、人と人との関係から生まれる「社会的なこと」の行き過ぎを批判しているということだった。特にこの本では人(個人)を重要視したマルクス経済学の解説になっていて、僕が世間一般の左翼のイメージから連想されていたネガティブなものとは少し色合いが異なっていた。

さらに後半部分では、ネット右翼的な身内万歳の共同体意識=身内集団原理(武士道)を批判しつつ、江戸時代の開放個人主義原理(商人道)が紹介されており、日本の伝統的な思想とマルクス経済学をドッキングさせた最適解が提案されている。この点については詳しく書かれていないので、彼のほかの著書(『商人道ノスヽメ』など)を読めということなのだろう。雰囲気的にはP・F.ドラッカーの『 マネジメント ― 基本と原則 』とも通じるところがあって、なかなか面白そうである。

Posted by Syun Osawa at 01:30