2006年11月09日
ユーゴスラヴィア現代史
柴宜弘/1996年/岩波書店/新書
坂口尚さんの『 石の花 』(講談社)だったり、エンキ・ビラルの『 モンスターの眠り 』(河出書房新社)を読む前に読んでおいた方がよい本。
ユーゴ紛争について、どれだけの日本人がその内実を理解しているのだろうか。少なくとも僕は何一つ理解していなかった。
ボスニア紛争については、その輪郭を高木徹『 ドキュメント戦争広告代理店 』(講談社)によってなぞることができたが、なぜこんな狭いところで激烈な戦闘が起きるのかはわからないままだった。
で、この本。コンパクトながらとてもわかりやすい。
書き方はわかりやすいが、内容はわかりにくい。ほとんど見分けのつかない人同士が「民族」の名の下に殺しあう様は僕の理解を完全に超えてしまっている。だから、単純にナチスとクロアチア、セルビアとソ連(社会主義)というような図式での理解ではいけないのだ。社会主義があったから民族主義が激化したのか、それとも社会主義があったからこれまで民族主義が激化しないですんだのか、この一点に焦点を絞ったとしても考え方は激しく対立する。
こうした対立は日本に置き換えることが可能だろうか? 日本にも在日朝鮮人の問題がある。もしも在日朝鮮人が日本のある場所に自治区をつくり、独立を宣言したとしたら日本政府はどんな行動をとるだろうか? 武力で制圧にかかるだろうか? それとも話し合いで解決を目指すだろうか?
武力で制圧にかかったのがセルビアのミロシェビッチだ。ところがミロシェビッチは「民族浄化」のプロパガンダ作戦によりヒトラーのごとき汚名を着せられて、逮捕されることになる。それまでの歴史を踏まえると、そうそう単純ではいられない。いずれにせよ複雑すぎるのだ。
この本を見ると、日本の問題はそれほど大きくないなと思える。なぜなら、ある朝起きたら隣の住人が敵になっていて、殺しあうことになるような事態には陥っていないからだ。しかし、人間にはそういう側面があり、もちろん自分の中にもあるのだということを、ユーゴスラヴィアの問題は教えてくれる。
もう少し勉強が進んだら、かつて見た『ユリシーズの瞳』と『アンダーグラウンド』を見直したいと思う。とくに『アンダーグラウンド』に関しては、『 映画『アンダーグラウンド』を観ましたか? 』で復習したこともあり、受け入れ態勢はできつつある。
ちなみに現在のサッカー日本代表監督、イビチャ・オシムさんはボスニア・ヘルツェゴビナ生まれのセルビア人である。この意味も深い。
Posted by Syun Osawa at 00:42