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2009年11月16日

ビジネス・スキルズベーシック 図解術

永山嘉昭/2007年/秀和システム/A5

ビジネス・スキルズベーシック 図解術最初に図解に興味を持ったのは、FireFox起動直後に最初に表示されるサイトの一つ AFP BBNews が、国際ニュースの重要なトピックを図解で説明していたからだ。それで、ヒエロニムス・ボスの創造性 やら ニコ生周辺のメディア状況 を図解してみたりして、「これはなかなか面白いぞ」と思うに至って、この手の本を真面目に読んでいるのである。

ところが、図解の本は数多く出ているが、どれも似通った内容で、書いている執筆者の数も知れている。実際に読み始めるまで気づかなかったのだが、今回の本は、前回読んだ『 超シンプル図解術 』と同じ著者の本だった。そのせいか同じような内容で、図版の使いまわしも多い。批評系の本だと、こういうことをやれば「お前は香山リカか!」とか言って叩かれそうだが、ビジネス書ではこういう出版のあり方そのものが、一つのビジネスモデルを表現しているとも言える。だから、内容の重複にいちいち目くじらを立てるのではなく、こうやって儲けるんだな…といった程度の教訓にするのがいいのだろう。

超シンプル図解術 』と同書を比べると、読み物としては前者のほうが○、図の種類は後者のほうが○といった印象だった。図には、3C分析、ABC分析、PPM、SWOT分析、長方形斜線区切り図、+/−差異分析図、デシジョンツリー、3次元図解など、いちいちもっともらしい名前がつけられていて、よりビジネス対応(特にプレゼン)の本に仕上がっている。

たしかにかっこいい名前がつけられて、それなりの例が示されると、一瞬「おおっ」と思うのだが、よくよく見るとどの図も似ているし、俯瞰して見ると同じパターンにくくれるものも少なくない。結局のところ、この本で紹介された種類くらいが、この手の図解表現の限界ということなのだろう。例えば、3次元図解などは一見かなり複雑な図を処理できるように思えるが、実際には3次元でわかりやすい図を描くことは難しい。本の中でも3次元処理するときは、XYZ軸のどれか一つは0になっているような、シンプルな構成になっていないとわかりづらいと書かれている。つまり、これも複雑なことを処理しているような、プレゼン的まやかしでしかないわけだ。

【図】図解とは何か?

ようするに、図解とは意味の暴力的な単純化にほかならないのである。

ここで、先日行った 長崎尚志氏の講演会 での言葉を思い出した。漫画家の浦沢直樹氏とのコンビで数多くのヒット作を生み続けている漫画原作者の長崎氏は、浦沢氏に自分の考えたプロットを説明する前に、詳細な下準備をしている。しかし、浦沢氏との打ち合わせの段階では、そのプロットの細部は浦沢氏によって暗に拒否されるというのだ。このことは、言葉で書かれた世界を漫画の世界に変換するという作業が、図解することとかなり近いニュアンスを持っていることを示していると思う。

浦沢氏の『マスターキートン』や『モンスター』などは、作品の世界設定がかなり深い。しかし、長崎氏に言わせれば、彼の漫画は自分の用意した設定をかなり緩く表現されているらしいのだ。僕はこのことを否定的な意味で言いたいのではない。むしろ逆で、複雑なものをわかりやすく表現するという、まさに図解的な能力において神業を発揮できるのが浦沢氏だということである。だから、図解本を書くのに最も適任であり、しかも広告代理店的なまやかしではない図解の方法を解説できる人、それはもしかしたら浦沢氏なのではないか…ということを、たった2冊の図解本を読んだ素人がふと思ったのだった。さすがに前回と今回の本は導入本すぎたので、久恒啓一氏やアンドリュー・サター氏の本など、もうちょっとだけ図解関係の本も読んでみることにしよう。

Posted by Syun Osawa at 00:27