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2010年09月23日

画家たちの「戦争」

神坂次郎、河田明久、丹尾安典、福富太郎/2010年/新潮社/A5

画家たちの「戦争」タイトルが「画家たちの「戦争」」となっていて、僕の趣味である 戦争と芸術 関連の書籍としてはドストライクな本と言える。7月に、この本の宣伝をPR誌の「ちくま」で見つけたので、積読リストを無視してすぐに読むことにした。

戦争と芸術を扱った本はいろいろ出ているが、この本は日中戦争の頃に軍部が依頼した従軍記録画などに焦点を当てて書かれている。そのため、田中日佐夫氏の『 戦争画の系譜 』のように日本で描かれた戦争画を俯瞰したような広さはなく、個人的には少し物足りない内容だった。とはいえ、従軍記録画として有名な絵(もしくは僕の好きな絵)がかなりのボリュームで掲載されていたし、軍人が戦争画を多く描いていた話などは知らなかったので、そういった意味では僕得な内容だったと思う。

ところで、小磯良平氏の《娘子関を征く》が何の紹介文もなくサラッと掲載されていたのだが、あの掲載の仕方には何かしらの配慮があったのだろうか。東京国立近代美術館で展示されている《娘子関を征く》はとても素晴らしい絵である。しかし、彼が戦争画に批判的だったことは後に発見された手紙などで明らかになっている。常設展の別のフロアに展示されている《練習場の踊り子達》が、《娘子関を征く》以上に強い印象を残していることは間違いないが。

話がそれた。

今回の本では、後半に花岡萬舟という人の作品に触れていた。これはおそらく、早稲田大学でやった 戦争画の相貌展 を受けてのものだろう。しかし、彼の項目は藤田嗣治や宮本三郎、小磯良平らと並んで歴史に残さなければいけないようなことなのだろうか。こうやってガイド本になるということは、ある意味で歴史化されるって事なので、その点では妙な気持ちになった。

このあたりの妙な気分とつながるのかもしれないが、河田明久氏の論考は相変わらずわかりにくい。丹尾安典氏との共著『 イメージのなかの戦争 ― 日清・日露から冷戦まで 』もそうだったが、何を言いたいのか本当に良くわからない(僕がバカなだけなんだけど…)。いろんなところに目配せのあるポジショントークっぽいところが、僕がうーんとなってしまう原因かも。まぁ、それはいいか。

それはともかく、太平洋戦争時期の従軍記録画のガイド本としてはひとまず決定版ということになるのだろう。この時期に描かれれた従軍記録画の面白いところは、日本とドイツの反応の違いにあると思う。ドイツでは有名画家たちをディスった退廃美術展に多くの客が入り、ナチスが推薦したリアリズム具象画路線の大ドイツ展には客が入らなかったことに対し、日本では聖戦美術展などに多くの客が入っていた。ドイツでは受けなかったものが、日本では受けたのは、たんなる民度の差だろうか? 僕にはそうは思われない。この時期に描かれた戦争画について、今、わりと興味のあるポイントはこのあたりだったりする。

(関連)戦争と芸術

Posted by Syun Osawa at 08:40