bemod

2010年09月26日

コンテンポラリーアニメーション入門 第5回

2010年9月4日/18:00−20:00/東京藝術大学 馬車道校舎

コンテンポラリーアニメーション 第4回前回 に続き、プリート・パルン氏の作品にスポットを当てた公開講座。こういう企画自体が珍しいし、それが無料というのも凄い。そんな大変貴重な講座であるのに、それを聴講する側の僕にそれに見合う素養が備わっていないものだから、彼の作品をすんなりと脳内で処理することはなかなか難しかった。

今回の特集では、パルン氏が手がけた作品のうち、ソ連時代につくられたものが公開された。社会主義の国で創作活動をすることが、作家や作品に与える影響という意味では、戦争と芸術 という僕の趣味ともかなり近く、以前見た ロシア革命アニメーション 的なものがまぎれこんでやしないかと、少し期待していたりもした。

ソ連時代、一応検閲はあったようである。彼はエストニア出身であったから、まず最初にエストニアでの検閲があり、その次にソ連中央での検閲がああったそうな。これらの手続きがどの程度の深刻さを帯びているのかわからないが、本人は検閲を通すのはゲームのようなものだと語っていた。例えば、「タイムアウト」という作品にはピエロが登場するのだが、本当はこのキャラクターは検閲前はロシア兵だったそうである。

つまり、軍事的なものや政治的なものは体制批判につながる恐れがあるということで、検閲官が極力排除しようとしていたのかもしれない。イデオロギーの塊が爆発してできたような国なのに、その内部ではそれを脱臭するような検閲の仕方をしているのが何とも不思議である。パルン氏があまり深刻な思い出として語っていないことから想像するに、それらの検閲が創作に深刻な影を落としていたということはなさそうだ。このことは、同じ社会主義体制下の国でアニメーションを作っていた、イシュトゥバーン・オロス氏も同じようなことを アニドウのイベント で語っていたように記憶している。

そんなソ連時代に彼が作り上げた作品の代表作が「草上の朝食」である。この作品の構造はシンプルで、マネの《草上の朝食》という絵に描かれた人たちがどのようにしてその場所に集ったかを、社会風刺的に描いた作品である。内容的には結構、嫌味っぽいというか、人間の残念な部分と社会の残念な部分の上に、《草上の朝食》という美しい絵はあるという皮肉めいた作品になっている。こういう明確なストーリーやキャラクターが存在しないままに、何となく人間や社会が照射されていくというスタイルの作品はパルン氏の作品の特徴なのだろうか。

山村氏の解説や、上映されたドキュメンタリーから推察するに、彼は帰納法でストーリーを組み上げていっているのだと思う。強いキャラクターを作ることをつくらないところは、どこか北野武の映画にも通じるところがあって、何というか器と構造の配置の妙を楽しませているような節もある。

僕は 前回 初めてパルン氏の作品を見て、今回でまた二回目だ。正直言って、どの作品もよくわかったようなわからないような印象ではあるのだが、それでも彼の制作スタイルや思想に共感できるところが多かったように思う。次回の公開講座もまたパルン氏の作品が見れるというので、これまた楽しみである。僕もこういう作品が作れるようになりたいなぁ(本音w)。

Posted by Syun Osawa at 09:12