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2010年12月30日

不況は人災です! みんなで元気になる経済学・入門

松尾匡/2010年/筑摩書房/四六

不況は人災です! みんなで元気になる経済学・入門図解雑学 マルクス経済学 』が面白かったので、続けて同じ著者の本を読むことにした。経済学の世界には、自然科学の世界とは違って、一本の大きな価値体系というものがあるわけではないようだ。学派によって経済の見方は変わり、それぞれの島宇宙に属する学者たちが経済に対する考え方を巡って論争をすることは珍しくない。だから、経済学に関する本を読むときは、その著者の立ち位置を頭に入れながら読まないといけない。そういうことくらいまでは、僕の脳みそでもわかってきた。

で、この人はマルクス経済学によく言及するリフレ派の学者ということらしい(いわゆるマル経の学者ではないようだ)。リフレ派といえば、高橋洋一『 バカヤロー経済学 』や飯田泰之『 考える技術としての統計学 』などを読んでいて、僕自身、彼らの考え方に共感するところが多い。そのせいか、今回の本もあまり違和感を感じずにスラスラと読むことができた。

面白かったのは、ゼロ年代の初頭に小泉首相がやっていた経済政策が、天井を上に押し上げる経済政策だと解説していたところだ。経済政策には天井を押し上げる政策と、今この瞬間の経済をよくする政策とがあって、小泉首相は目の前の雇用対策をあまり重視しなかった。そのせいで、経済が回復したとテレビが伝えていても、国民一人ひとりはそれほど経済の回復を実感できなかったのだ。

よって、雇用対策をしっかりしろというのが著者の主張で、これは非常に納得できる。民主党は内需拡大を訴えていたが、この訴えだと小泉首相の天井の押し上げをイメージさせる恐れがあるので、内需回復と言うべきかもしれない。そして、まずはリアルに「ものを買いたい」と考える人を増やすというベタな需要の回復を目指すべきなのだ。

マッテオ・モッテルリーニ『 世界は感情で動く 』などを読んだあたりから感じていることでもあるが、経済の動きというのは人々の感情や気分に左右されていることがわかってきた。ドル円の値動きなどを見ても、国際的なニュース一つで乱高下してしまうし、その乱高下を受けた人々の感情を受けてまたその値動きが変化するという、連鎖が起きる。インターネットの出現により、ニュースが瞬時に、しかもくまなく世界中を巡ってしまう今、その現象はより顕著に現れていると考えていいだろう。

こうした状況下で、日本はどういうスタンスを取るべきなのか。どうすればデフレから脱却することができるのか。政策的な方面ではまったく答えは思いつかないが、心情的には楽観的かつ強気にいくしかないと思う。著者もその点について本書で触れていて、デフレが回復しない理由の一つとして、日本人のリスクに対する慎重な考え方を挙げていた。

未来のことに絶対はないし、完璧なシステムも存在しない。だから「○○すれば、○○になる」という事はどこまでいっても言うことができない。そうした意味で、未来に対するリスクをどれだけ引き受けるかは気持ちに依存するところが非常に大きいのである。これは心理の領域の話になるのだろう。だから次からは、人の心理(特に催眠術とか)に関する本を、経済を視野に入れながらちょこちょこ読んでみようと思う。

Posted by Syun Osawa at 01:35