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2014年04月14日

脱がない、媚びない、NOと言えるアイドル

橋本美香/2012年/ヤマハミュージックメディア/四六

脱がない、媚びない、NOと言えるアイドル制服向上委員会 3期生(元5代目リーダー)で現・会長の橋本美香さんによる半自伝本。

サブタイトルが「制服向上委員会の生き残り戦略」となっていて、よくある自伝本よりは少し客観的な視点で書かれている。この本の前に上原美優さんの『 10人兄弟貧乏アイドル☆ 私、イケナイ少女だったんでしょうか? 』を読んでいただけに、ひとくちにアイドルと言ってもこんなにも歩んでる道は違うのかと率直に思った。

最近の制服委員会は脱原発の運動に積極的に参加しており、「ダッ!ダッ!脱・原発の歌」や「悪魔・野田・TPP」といった歌を歌っている。これが1960年代のアメリカで流行したプロテストソングを模したものならば、それはそれで何かしらの意味が見出せるのかもしれないが、こうした活動が嫌でグループから脱退者を出している現状ではどうなの? …という感じもしないでもない。

補足で読んだ『季刊 高校のひろば Vol.82』(2012年 春号)での橋本さんと現リーダーの小川さんのインタビューで、小川さんは脱原発の話題は学校ではしないと語っていた。SKIの活動についても話していないそうなので、そうなるとこの活動は一体何をモチベーションにして続けられているのかという新たな興味も湧いてくるが、これはまた別の話。

この本の中で興味深かったのは、昔のほうが給料が高かったという点だ。しかも制服向上委員会はかつては日比谷の野音でもライブをしていたそうな。アイドルブームと言われている現在、日比谷の野音でライブをできるアイドルが9nineやぱすぽ☆クラスの知名度を持ったグループに限られることを考えれば、日本に蔓延するデフレの状況とアイドル業界は決して無縁ではないのだろう。

アイドルも資本主義下の商品である以上、その価値の低下から逃れられないのだ。だからこそアイドルは単価を引き下げながら現場の数を増やし、アイドルヲタは現場への参戦数を増やすのだ。

Posted by Syun Osawa at 22:46

10人兄弟貧乏アイドル☆ 私、イケナイ少女だったんでしょうか?

上原美優/2009年/ポプラ社/四六

10人兄弟貧乏アイドル☆ 私、イケナイ少女だったんでしょうか2011年5月22日に亡くなられた上原美優さんの半自伝本。自分がアイドルの現場によく行くようになり、そこで見るアイドルたちをより多面的に見てみたいという思いからアイドルに関連する本を読むようになった。…と言っても、よくあるアイドル名鑑のような本ではなく、香月真理子さんの『 欲望のゆくえ 』のようなアイドルの実像を社会的テーマとして追った本だ。他にもアダルトビデオに出演する女優を扱った本もちょこちょこ読んでいる。

この本もそういう経緯から読んだ。上原さんが亡くなられたとき、2chなどで彼女の所属していたプラチナムや関東連合との関わりについていろいろ書かれていて、そのワイドショー的な扱われ方が酷く薄っぺらいものに思えた。この本によると、彼女は一度プラチナムを辞めており、その原因は彼女自身の問題行動によるものだ。枕営業うんぬんの話題もこの手のアイドル話には尽きないが、彼女にとってもっと大きな問題は家族であり恋人であったようだ。

これは普通に考えれば当たり前の事だ。とあるアダルト系のライターが「アダルトビデオの業界に入る子はこの業界に入って問題を抱えたのではなく、この業界に入る前からすでに問題を抱えている」と書いていたが、これはアイドル業界にも言えることだと思う。

この本では家族のことや恋人のこと、学生時代に遭ったレイプのことなど、芸能界よりももっと内側のことが赤裸々に書かれている。そこには情緒的で激しい感情を持った彼女の姿が見え隠れして、そんな彼女が最後に自殺という選択をしたことが胸をしめつけた。

本の中ほどに年老いた両親と美優さんの3人が笑顔で写った写真が掲載されている。そこに至るまでに様々な紆余曲折があり、ようやくたどり着いた笑顔だけに、その後の母親の急死と母の後を追うようにして亡くなった美優さんの顛末はやりきれない気持ちでいっぱいだ。

Posted by Syun Osawa at 22:39

封印されたアダルトビデオ

井川楊枝/2012年/彩図社/四六

封印されたアダルトビデオバッキー事件とジュニアアイドルの話が載っているということで読んでみることに。バッキー事件は2chにスレが立ち始めたころにリアルタイムで追っていたので内容的にそれほど新しいものはなかったが、この著者自身が当事者として関わっているため、wikipediaとは違う事件への私見があり興味深かった。

ジュニアアイドルの話はAVの話よりもジュニアアイドルの片親率の高さとか、撮影会で支払われるギャラの値段とか、そのあたりの内幕が書かれていたことが面白かった。ジュニアアイドルやそれを取り巻く市場についてのルポは香月真理子さんの『 欲望のゆくえ 』くらいしか知らないので、資料的な意味でも貴重な内容だと思う。

封印されるくらいのアダルトビデオなので内容的にはろくでもないものが多かったが、障害者を扱ったAVは社会の暗部を痛切に突いており、深く考えさせられた。僕らが普段タブーだと思って蓋をしているところをあえて突破することで見えてくる現実というのはあって、そういう壁を突破できるオルタナティブというのは必要なのだと思う(良くも悪くも)。

お互いが空気を読みあい、インターネットを参照しながら考えることでどんどん平準化されていく社会は閉塞感を加速させるだけだ。しかし、そうした行為が効率的である以上それをやめることは難しい。そういうときにあえて提示されるオルタナティブは格好の叩きの対象になりがちだが、そうした未知の自体に直面して初めて考えさせられることも少なくない。だからこそ互いの自主規制によってがんじがらめになる大手メディアとその鬱憤が吹きだす2chのようなサイトの間にはオルタナティブとしての何かが必要なのだと思う。そして、そのヒントとなるものがこの本の中には書かれていたように思う。

Posted by Syun Osawa at 22:18