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2018年1月11日

最強伝説 黒沢(全11巻)

福本伸行/2006年/講談社/四六

最強伝説 黒沢(全11巻)その昔、赤旗新聞の記者だった人と小林多喜二関連の書籍の仕事で絡んだことがあり、その時に面白いと薦めてくれたのがこの漫画だった。そのときは福本信行の存在は知っていたが漫画を読んだことがなく、「いずれ読んでみます」と流してしまった。

もしその時この漫画を読んでいたら僕はどんな風になっていただろうか、今よりも妥協しない強い人間になっていただろうか、それくらい強く人生観を揺さぶる漫画だった。あの時から10年を経た40歳の今だからこそ得るものが大きかったのかもしれないが、とにかく面白い漫画だった。

この漫画の特徴は前半の「ダメ親父のギャグ漫画」と後半の「ダメ親父が矜持を持って頑張るストーリー漫画」の2つに区分されるところだと思う。ネットで良く引用されるのは前半部分のギャグ漫画のところで、僕の知っている黒沢の印象もほとんどその部分だった。

だから後半になるにつれて、ギャグの要素が薄れてストーリー展開にワンパターンの影が指してきたときに「うーん、思ってた展開と違うなぁ」と一瞬思ったこともあった。ところがそのストーリー漫画の部分が最後の最後で全部をかっさらうほどの感動を呼び起こすのだ。ほのぼのとしたダメ親父の日常に留まらず、そこから人間とは何かということを深く深く感じさせるその展開は、最初がギャグ漫画だったからこそ余計に読者の気持ちを引き付けたと思う。

Amazonのレビューで誰かが書いていたが、アカギでもカイジでも黒沢には敵わないと思う。それくらい強く深い内容で福本漫画の最高峰と呼ぶにふさわしい内容だった。

この本を読み終えた後、僕も昔は一人でめそめそ泣いていたなぁと思い出した。それは悲しかったり辛かったりして泣いていたわけではなく、現実の困難さに上手く立ち向かうことができなくて、それでも理想ばかり大きくて、その情けなさに泣いていたのだ。それが今ではすっかり泣かなくなった。強くなったからではない、いろいろなことをあきらめたから泣かなくなったのだ。それでいいのだろうか? …と、心にズンと残る問題を真正面から提示されたような気分になった。

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