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2018年3月30日

介護士からプロ棋士へ 大器じゃないけど、晩成しました

今泉健司/2015年/講談社/四六

介護士からプロ棋士へ僕は著者の今泉氏が将棋のプロ編入試験を受けている対局をリアルタイムで見ていた。40歳を過ぎてからのプロ挑戦というのはいくら現役生活の長いプロ棋士といえども無謀に感じられたし、それだけに彼が勝ってプロ編入が決まった瞬間の彼の何とも言えない表情がとても感動的で、僕はパソコンの前で一人泣いていた。

この本は今泉氏が奨励会の三段リーグで敗れ、その後の編入試験でも落ち、そして再度の編入試験で見事合格してプロ棋士になるまでのエピソードが書かれている。最初の退会後は勝負勘を見込まれて株のトレーダーになったりしたが長続きせず、介護の仕事しながらアマチュアの棋戦で実績を残し、プロへの編入試験を受けることになったようだ。

たまにアマチュアでもプロに勝つような人がいて、世の中にはそんな凄いアマチュアもいるんだな…と思ったりもしていたが、ようするに元ノンプロ(奨励会員)だったりしたわけだ。プロ野球の世界なら肉体的な衰えがあるため20代前半までにプロ入りできなければ現役のプロ野球選手になることは不可能だろう。将棋にもそうした限界はあるはずで、40代ともなると棋力の衰えは大きいはずだ。にもかかわらず今泉氏は編入試験でプロ相手に勝ち越し、見事にプロへの切符をつかんだ。

夢を諦めないというのは簡単だが、中年になってそれを言い続けるのは困難である。僕自身が40代になってそれを痛感する。諦めたくないという気持ち自体が衰えていくのだ。そんな気力が減退していく年齢にさしかかりながら、モチベーションを維持し続け、最後の最後で今泉氏はプロ棋士になったのだ。

この本には後日談がある。

この文章を書いている2018年3月30日現在、彼はC2というクラスに在籍している。プロ編入試験合格後に参加したフリークラスを勝ち抜けC2という名人戦の順位戦に参加することができたのだ。しかも、2017年度はC2のリーグで8勝2敗の好成績をおさめ、あわや1期でC1へ上がる可能性すらあった。年齢的にC1へ上がれるチャンスが次に何度訪れるかわからないが、プロになってゴールではなく、さらに上にはい上がろうとする貪欲な姿勢を今も見せ続けている。

ただただ尊敬。尊敬しかない。

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