2018年7月26日
ふたご
藤崎詩織/2017年/文藝春秋/四六
SEKAI NO OWARIのキーボードを担当しているSiori氏による小説。ストーリーは私小説的だ。うがった見方をせずにそのまま捉えれば、Sioriとボーカルの深瀬との出会いからバンド結成を経てメジャーデビューに至るまでのことが書かれている。
SEKAI NO OWARIの曲は少し苦手な部分があって、「RADWINPSは聴けるけどSEKAI NO OWARIは聴けない。おっさんにはあの中二感はキツい」などと周囲の人に言ったりもしていた。その苦手な部分はこの小説にも色濃くあられていて、小説の登場人物たちの甘えた感じに僕はやや距離感を感じてしまった。
でも、今回の小説はその部分はたいして重要ではなく、Sioriとボーカルの深瀬の関係が赤裸々に描かれていたところがポイントなのだ。友達でもなく恋人でもない関係を恋人になることをお預けされているSiori側から書いた小説とも言える。
僕は幸か不幸か告白しそれを保留されたこともあるし、逆に告白されてそれを保留した経験もある。保留するにはそれぞれ事情はあるが、たいていは相手の気持ちをもともと知りながらも友達でいたいと願っていることが多いと思う。今回の場合もそのケースに近く、深瀬はもともとSioriの恋心を気づいていながらそこには触れずに良い関係を築いていたいと思っていたのかもしれない。
興味深いのは、結局主人公のなっちゃんは月島に告白しなかったことだ。これはゼロ年代っぽい気がする。告白したらこの関係が壊れることをわかっていたから、告白せずに今の関係をずっと継続していくことを望んだのだ。告白してからの大きな波こそがドラマなのだという古い感覚とは違う、今も昔も変わらないでいいという水平感というかフラット感が今っぽいといえば今っぽいのかもしれない。
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