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2017年12月28日

詐欺の帝王

溝口敦/2014年/文藝春秋/新書

詐欺の帝王「オレオレ詐欺」もしくは「母さん助けて詐欺」という特殊詐欺がゼロ年代に隆盛を極めた。息子や孫を装って高齢者からお金を振り込ませる単純なものから始まり、税務署の職員を装って未払い分の税金を徴収するというものや弁護士を装って息子の事故の示談金を受け取るというものなど手口は多様で巧妙化している。

僕の最大の疑問は「なぜ巧妙化したのか?」ということで、その疑問がこの本を読むことで解消した。この手の詐欺は別称システム詐欺と呼ばれており、集団で行うことが通常である。一人ひとりに明確な役割が与えられており、仲間であってもお互いのプライベートを知ることを禁止されている。

つまり匿名の人間が集まり匿名を維持したままシステムの中で詐欺行為を働くというもので、そのシステムを動かしている人間や詐欺の台本を書いている人は直接手を汚すことはない。金を稼ぐということだけを目的にしたシステムである。

こうしたシステムが闇金の帝王と呼ばれた五菱会が壊滅状態に陥ったこととの対比として語られていたのも興味深い。ヤクザ組織の強みは組織であることなわけだが、その強みが詐欺を働く上では弱点にもなる。末端が逮捕されれば数珠つなぎで最高幹部まで逮捕されるからだ。その数珠つなぎの連鎖を断ち切って匿名性を徹底的に高めていったところにこのシステムの凄さがあるし、コミュニティ意識の希薄になった現代社会の生んだ犯罪だという気もする。

希薄になったと言えば、闇金は法律のギリギリ(グレーゾーン)のところで金儲けをやっているが、このシステム詐欺は最初から犯罪であることを自覚している。つまりその商売を長く続けていこうとか、そこでの人間関係を大事にしようというような感覚がそもそも存在しないのだ。警察が徹底して闇金を潰した結果、開き直った者がならず者と化していく様はなんとも皮肉である。

この本を読んでいて一つ気づかされたことがある。ブラックマネーで稼ぐ人がなぜ夜の商売などで大金を使うかというと、詐欺師はそもそも大金を銀行に預金することができないからだ。そのお金を使うには現金で大量に使えるところで羽目を外すしかない。こうした大金は家の金庫に保管するほかなく、そうであるがゆえに命を狙われる危険性に常にさらされることになる。これはたしかに怖い。

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