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2018年1月9日

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら

岩崎夏海/2015年/ダイヤモンド社/四六

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだらもし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら 』の続編。ドラッガーファンが読んでも前作はなかなか面白い内容だったので今回も期待して読んだ。

残念ながら前作ほど楽しめなかった。少しのネタバレになるが、今回は休部していた野球部を復活させたとき、マネージャーだけが増えていった状況をイノベーションだと考えていくという内容だった。

その方向性はかなり面白いと思ったのだが、提示されるアイディアが最後にわりと普通の方向に収斂されていったのが残念だった。続編ということもあったし、トリッキーなロジックだったのでそれを物語として昇華させるのはかなり難しかったのかもしれない。その点については筆者自身があとがきに書いていた。

だから物語の細部に関する突込みは置いておいて、この本が消化不良になった原因について素人意見を書いておきたい。ひとことで言えば、日本におけるイノベーションの困難さがそのまま本にも表れているということだろう。

例えばアメリカならサブプライムローン問題で経済が一時急落したにもかかわらず、2015年末の時点ではすっかり景気が回復している。その間にウーバーなどという新しい形式のタクシー会社が世界中を席巻したり明確なイノベーションが起きているからだ。

その一方で日本では東芝の粉飾決算で株価が暴落するなど、既得権益を持ったままの古い体質のゾンビ企業が生き長らえているせいで新陳代謝は悪いままである。この守り合いの精神を邪魔するのが日本的な考えに基づく善意であり、この点が事態を困難にしている。

本作でイノベーションが地味なところに留まっているのはこうした日本の事情が背景にあるのかなと思いながら読んでいた。ただ、もしもそうであるなら既得権益を持った古い体質と戦うといった日本的な味付けがあればなお楽しめたのではないかと思う。普通にイノベーションを起こそうというだけだったので、前作より少し物足りない内容になってしまったのかもしれない。

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