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2018年3月12日

酔って候〈新装版〉

司馬遼太郎/2003年/文藝春秋/文庫

酔って候〈新装版〉幕末の短編集。「酔って候」(山内容堂/土佐藩)、「きつね馬」(島津久光/薩摩藩)、「伊達の黒船」(伊達宗城/伊予宇和島藩)、「肥前の妖怪」(鍋島閑臾/肥前藩)の4作品が収録されている。

幕末を題材にした司馬遼太郎の小説と言えば、以前に『最後の将軍 ― 徳川慶喜』を読んだことがあり、この本は幕末を描くにはやや短く感じられたがとても雰囲気が良かった記憶があった。今回の小説は短編集なのでさらに短く物語としては物足りなさが残ったが、幕末のそれぞれの藩主の思いや当時の空気感をとても丁寧に描いていたように思う。

幕末は敵と味方がはっきりと分かれていて大きな戦争の上で何かが決着したということはなく、いろいろな人間の思惑が重層的に絡み合いながら、何となく明治という時代を迎えた。もう徳川幕府による時代ではないということを多くの武士は認識しており、そのうえで武士たちは徳川以後の在り方やそうした時代背景の中で自分はどう生きていくのかを考えていたのだろう。

幕末の物語がいまも多く描かれるのはこうした不安をエネルギー源としたストーリーに共感するからで、2017年になっても残念ながら人間は相変わらず不安感と対峙し続けている。僕にいたっては40歳を迎えてさらにその不安感は大きくなり、胃が痛み続けているのである。

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