bemod

2019年11月28日

ウルフ・ボーイズ ―二人のアメリカ人少年とメキシコで最も危険な麻薬カルテル

ダン・スレーター/訳:堀江里美/2018年/青土社/四六

メキシコの麻薬戦争に関しては10年以上前から追いかけている。メキシコの麻薬戦争に関するニュースはどれもぼやかされていてその内実をはっきりと追ったものは少ない。それは詳細にマフィアの事情を書くと、そのライターなり出版社がマフィアからの標的になるというトンデモな状況下にあるからだ。

ではなぜ今回この本が書けたかというと、ここに出てくる登場人物(マフィアのボスも含めて)の大半が逮捕され、それなりに時間が経過したからだろうと思われる。

アメリカ側のラレドという都市とメキシコ側のヌエボラレドという都市は川を一つ挟んで重なっており、アメリカ国籍を持つ者は自由に2つの都市を行き来できるようだ。それを利用して麻薬の密売が横行するわけだが、同じような地域の街でありながら二つの街の状況はまったく違う。その最も大きなところは、殺人を犯してもヌエボラレドでは麻薬がらみだとほとんど調査もされない。なぜなら調査するとその警察がマフィアに命を狙われることになるからだ。

アメリカ側は警察が機能しているため、アメリカ側で殺人を犯すと当然終身刑になったりもする。今回登場する二人のマフィアはアメリカの高校をドロップアウトした少年で、メキシコでマフィアのメンバーになり多くの人を殺した。そして、アメリカ側でも同様に殺しを働くようになり、アメリカ側の殺人によって彼らは刑務所に入ることになったのだ。

この本を読んでいるとわかったようなわからないような不思議な感覚に陥る。日本で暮らしているとそんな状況にはまずならないからだ。日本にもヤクザ組織があり、九州の方だとかなり荒っぽいという話も聞くが、数十人の人間を一度に殺すようなことはしないし、毎晩道路でマシンガンを使って対立メンバーをハチの巣にしたりすることもない。

しかし、そんな異常な空間が当たり前のようになっているのがアメリカのマフィアの世界だ。拷問も殺害方法もエスカレートし、僕もネットでたくさんの殺害写真を見たがどんなホラー映画よりも恐ろしい世界だ。ところが不思議なことに、そんな目を覆いたくなるような殺害写真もたくさん見ると次第に慣れてくる。

人を殺すという最も理性でストップがかけられているハードルも、異常空間ではそれが普通の出来事になってしまうのかもしれない。戦争がその良い例だろう。一般的な戦争と麻薬戦争の大きな違いは、普通の日常と並行してそれらが行われている点だろう。この共存が恐ろしい。

読む[書籍]  ウルフ・ボーイズ ―二人のアメリカ人少年とメキシコで最も危険な麻薬カルテル はコメントを受け付けていません。