bemod

2017年12月27日

「AV女優」の社会学

鈴木涼美/2013年/青土社/四六

「AV女優」の社会学元日経新聞記者が佐藤るりという名前でAV女優をやっていたということが少し前に話題になり、その女性が2013年に鈴木涼美という名前で本も出していたということを知ったので読んでみることにした。AV女優であり新聞記者でもあるというスペックの人は天然記念物並みに希少なので、さぞかし面白い内容の本なのだろうと期待したがさほどでもなかった。

というのもこの本の内容が彼女が慶應大学の学部制時代の論文と東京大学の院生時代の論文をミックスさせて仕上げられたからで、学術的な側面を強めた結果、素人が読む本としてはドライブ感(読みたくさせる躍動感みたいな意味)が少し足りなくなってしまったように思う。

彼女がこだわった「AV女優になる動機」という着眼点は興味深い。そこには自由意思とも強制とも言えないグレーゾーンが存在していて、性の商品化という不透明度の高い問題をさらに見えにくくしている。その見えにくさをリアルなAVの現場での実情を参照していくことで考えていこうという方向性には共感できたが、突っ込み方が甘かったり足元をすくわれないような慎重な筆致だったために面白みに欠けてしまった。

動機なんていうものが曖昧なのはAV以外の仕事でも同じだ。例えばバイトの面接で「この会社を志望した理由は?」なんて聞かれても、そこでの答えは面接官が求めている答えを考えて言っているにすぎない。バイトを始めてしばらくして、ようやく自分自身の動機を知るというのが実際のところだろう。

問題なのはそれがAVという性の商品化の最前の仕事だからで、この仕事の価値をどう見るかで捉えられ方は大きく変わってしまう。AV女優を上に見るのか下に見るのかでも全然違うし、AVを見る女性はほとんどいないという男女間の壁も大きい。バイトの例に倣うなら、AV女優が語る動機が「誰の求め」に応じて語るかで大きく変わってしまっても不思議ではない。それが、AVを買っている客なのか、AV女優の人間像を描き出したいルポライターなのか、性の商品化の問題を考えたいフェミニストなのかで、導き出される動機はまったく違ったものになることも容易に想像できることだ。

著者自身がAV女優だったわけだからそういう部分も含めてあえて客観視をしない踏み込み方で書かれると、素人のおっさんが読む本としては楽しめたのかなとも思う。

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