bemod

2017年12月28日

イスラム国の正体

黒井文太郎/2014年/KKベストセラーズ/新書

イスラム国の正体オスマン帝国六〇〇年史 』を読んで少しだけ基礎知識を固めておいたのは良かったと思う。というのも、この本ではリアルタイムな時事ネタから判断された勢力分析が話題の中心なので各勢力のバックボーンがどういう思想背景や歴史を担っているかがあまり説明されていないからだ。

いま起きている事態はかなり複雑な背景を持っているという現実を踏まえながら読んでいかないと、単なる勧善懲悪モノのストーリーに置き換えてイスラム国の正体=悪者という簡単な理解で片付けてしまいかねない。シリアとイラクで起きている問題は複雑であることを認め、イスラム国はその一部が表出しているに過ぎないという捉え方がより誠実な状況分析なのだという風に思っている。

日本はアメリカ側からの視点に立つことを避けられないため、クルド系の住民に肩入れする機会が多くなってしまう。そうするとイスラム国だけでなくシリアの現体制に対する批判も湧き上がるのだが、ではクルド系の住民が政権を取れば解決するかというとそんなこともない。おそらく民族や宗教というキーワードが国の形を決める時の前提になる時点でどうやっても解決などしない問題なのだ。

だからアメリカなどは自分の国のように多宗教・多民族国家への転換を中東で起こそうとしているのだが残念ながら上手くいっているとは言い難い。そこへイスラム国のような逆の方向へ引っ張る勢力が出てきて自体はより混迷の度合いを高めているのである。

じゃあどうすれば解決するのか? という問いがおそらくもっとも重要な問いであるはずだ。現実路線として停戦をして話し合いを延々とやることが最も最良の方法であると僕は思うが、それは解決とはちょっと違ったスタンスだ。そしてこれまで中東がやってきたことでもある。

民族や宗教の問題をずっと棚上げし続けてきたからこそ起きている事態だと捉えれば、停戦して先延ばしという方法自体に問題があったとも言えるので、結局はイスラム国を生んだ土壌(つまり歴史)について向き合いながら一つずつ絡み合った紐をほどいていくしか方法がないのだろう。

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