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2017年12月28日

抵抗の拠点から 朝日新聞「慰安婦報道」の核心

青木理/2014年/講談社/四六

抵抗の拠点から 朝日新聞「慰安婦報道」の核心従軍慰安婦問題、福島原発の吉田調書問題、池上彰氏のコラム掲載拒否問題など朝日新聞のごたごたに乗じて徹底的に朝日バッシングを行う世論に対して異議申し立てをした本。従軍慰安婦問題は国際問題化しており、韓国や中国との関係を悪化させている一つの原因にもなっているので、そういう意味において朝日は大きな過失を犯したと思っている節が僕自身にもあった。

この本を読んでその気持ちがなくなったかと言うとなくならない。ただ少しトーンダウンしたことは事実だ。というのも、朝日関係者(特に大きなバッシングを受けている植村隆氏)らのインタビューを聞く限り新聞記者として世間が騒ぐほどに大きな過ちを犯したとは思えないからだ。

朝日バッシングの根元を考えれば、慰安婦像の設置など国際問題化させて政治利用しようとする韓中に対する憤りが、彼らに付け入る隙を与えた朝日に向かっているのだろうということは容易に推測できる。だからと言って、朝日も被害者だとも言えない。彼らの発信し続けた平和への訴えが結果的に日韓の関係を面倒くさいものにしたことは間違いないからだ。

こうした事態は小さな人間関係に置き換えて考えるとわかりやすいかもしれない。例えば、過去に2つの家族の間にトラブルがあったとして、時間の経過とともに徐々に関係が修復してきたとする。そんな折に過去のトラブルの細かな問題を顕在化させ続けることによって、子供らの世代が再び態度を硬化させることは普通に起こるだろう。今更持ち出さなくても良いネタをわざわざ持ってきて、「真の関係修復のためにはこのトラブルの解決は避けては通れない」と言い続けることによって、結果的に両者の溝が埋まらなくなるという事態だ。

嫌な言い方かもしれないが、未解決のままであっても時間が解決してくれることというのはある。それは問題が解決したわけではなく、たんに多くの人が忘れてしまっているというだけの話なのだが、社会が平和に上手く回っていくためにはそうやって忘れていくことも大事な要素なのではないかと思う。

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