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2018年1月9日

「アラビアのロレンス」の真実:『知恵の七柱』を読み直す

田隅恒生/2013年/平凡社/四六

「アラビアのロレンス」の真実:『知恵の七柱』を読み直すロレンスの著書『知恵の七柱』を精読し、同時代の歴史的事象について書かれた他の文献や歴史的背景をミックスさせることでロレンスにまつわる謎を解き明かしていくという本。学者が読んでも耐えうるような本だったらしく素人にはやや難易度が高かった。というより『知恵の七柱』を読んだことがないので、その時点でこの本を読む資格があったかは怪しいが…。

それでも読みたいと思ったのは、ロレンスの『知恵の七柱』で彼が自省的に語っているシリア・イラクでの英仏露の行動が現在の混沌としたシリア情勢にもつながっているからだ。ISISなどはサイクス・ピコ協定で分断されたシリア・イラク・レバノンなどの分割線についての不満をその活動の根拠としている。

日本から見るとISISの活動などは不条理としか思えないが、最近読み継いでいるオスマントルコ界隈の本(今回の本もオスマントルコとアラブの戦い)のフィルターを通すとそれなりに納得できる部分がある。そして、対立の中心にある構図を理解すればするほど解決はほとんど困難ではないかとさえ思えてしまう。

中田考氏はかつてのオスマントルコが採用していたカリフ制を復活させるしかないと言っているらしく、その点についてはこの前読んだ『 オスマン帝国六〇〇年史 』を思い描くとなかなか面白い話だなと思う。次は彼の著書を読んでみたい。

ところで、ロレンスに関して僕が興味を持ったもう一つの理由は彼が根っからの軍人ではない(考古学の研究者に近い)ということと、当時まだ若者だったという点だ。キャリアのある軍人が中東をどうこうしようと画策したというよりは、自分のキャリアがまだまだな時期に情緒的に行動していた部分も多く、ロジックだけで物を見ていなかったことが興味深い。個人的な部分と社会的な部分が入り混じって、それが彼の書いた『知恵の七柱』にも反映されていることでとても物語的になっており、結果として嘘も多く混じっているようだ。

僕の文章能力のせいで上手く言語化できないが、ロレンスにまつわる言説というのはぼんやりした部分が歴史の一部に溶け込んでいるわかりやすい例なんだと思う。逆に言えば他の歴史化された物語にも多かれ少なかれそうした部分は溶け込んでおり、それを私たちは歴史と呼ぶのなら、私たちを根拠づけている歴史的基盤というのはとても脆弱でゆえにロマンチックなものであるということがわかる。それが今のISISの跋扈する中東ではより顕在化していると言えるかもしれない。

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