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2021年1月10日

渡辺淳之介:アイドルをクリエイトする

宗像明将/2016年/河出書房新社/四六

職業としての地下アイドル 』に続いてアイドル関連の本を読んだ。こちらはBiSHの生みの親である渡辺淳之介氏の仕事を追いかけたノンフィクションで、文章自体はライターの宗像氏が書いている。

BiSHというとAKB・坂道グループとももいろクローバー界隈を除けば、2010年代に一番売れたアイドルグループと言ってもよいかもしれない。もっとも彼女たちの消費はアイドルというよりはLittle Glee Monsterと同様にパフォーマンスグループという消費のされ方であり、ゼロ年代ならばPerfumeと似たポジションと考えたほうが妥当だろう。

ただ、それらのグループと大きく違うのは、BiSHがドブ板選挙とでも言うべき地下アイドルの営業スタイルを維持したまま幕張メッセや大阪城ホールまでたどり着いたということだろうと思う。ももいろクローバーなどもごく初期には地下アイドル同様のドブ板選挙的なCD積み上げ販促イベントや対バンイベントを繰り返していたが、あるところからそれを完全に止めてしまった。

しかしBiSHは、売れた後期になってもそうした営業スタイルを堅持している。それはひとえに彼女たちが所属する事務所が渡辺氏が作った零細芸能事務所であることにつきる。彼はつばさレコーズ所属時代にBiSというBiSHの前進とも言えるアイドルを横浜アリーナでライブをするレベルまで押し上げた実績がある。大手事務所のようなマスコミとのつながりがない中で、ヲタからの集金によって積み上げられた小銭をかき集め、うまく資金繰りをしながら大きな成功に導いたのは、早稲田大学政経学部卒の彼だからこそできる秀才的なバランス感覚も大いに役立ったのかもしれない。

くすぶっているレーベルが金儲けのためにアイドルに走るという時期があり、彼もそうした流れの中でBiSやBiSHを作り出したいわゆる後発組である。しかし、彼の手法は後発であったことを逆手に取った「やぶれかぶれ」方式というか、『水曜日のダウンタウン』的とでもいうべきポスト・アイドル路線・メタ・アイドル路線を貫くことで正統派アイドルに飽きたヲタにわかりやすいサブカル消費を提示し、受け入れられたようだ。

そこには楽曲をプロデュースしている松隈氏との出会いも大きい。この出会いがなければBiSもBiSHもないわけだから、そういう意味でもやはり人生において出会いというのはいかに大事なものであるかということに気づかされる。

個人的に面白かったのは、彼ら二人がデートピアでバイトしていたということだった。しかもデートピアがアイラミツキを売り出している姿を見て、アイドル・プロデュースの手法を学んだらしい。僕は長きにわたってアイラミツキを追いかけていたので、デートピアの良くも悪くもいい加減な感じを楽しんでいたところがあったので、そうしたいい加減さの中から新しい価値観が生み出されたことは単純に嬉しく思う。

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