bemod

2017年11月23日

博士の愛した数式

小川洋子/2005年/新潮社/文庫

博士の愛した数式80分しか記憶がもたない数学者と家政婦とその息子の物語。映画化されるだけあってなかなか面白い話だった。内容に対する感想はたくさんネットに上がっているので省略。この本を読みながら「アイドルとファンの握手会もこんな感じだよな~」的なことを考えていたので、そのことについて書いておこうと思う。

博士の記憶は80分でリセットされてしまうので、80分後にはまた一から順を追って相手とコミュニケーションをする必要がある。つまりコミュニケーションが深まっていかない。これはアイドルとヲタの握手会のそれに近いようにも思う。

握手会はヲタの間では「接触」と呼ばれることが多い。この接触時間はアイドルグループのランクによって違うものの、長くても数分くらいで博士のそれよりもはるかに短い。かなり頻繁に足を運ばないと相手に顔を覚えてもらうことすらできないのだ。

AKB48のプロデューサーは10秒足らずの接触のことを「短編映画」という比喩で表現したことがある。ヲタの側にはその短編映画の記憶は残り続けるが、アイドルの側は次のヲタとの握手の瞬間にその記憶はリセットされてしまう。この状況はこの本に登場する博士と家政婦の関係に近いものがあると言えるだろう。

そういう視点でこの本を読むと、コミュニケーションの深まらなさというか通じ合わなさの中にもちゃんとストーリーを見出すことができ、人の心を動かすだけの強度を持った美しさもあるということを教えられた。これは昔読んだソルジェニツィン『 イワン・デニソビッチの一日 』ともちかい変わらない繰り返し(終わらない日常)をどう生きるかという話とも近いのだろう。

…と、積極的にドルヲタの肯定的に捉えながら読んでみた。

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