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2018年1月10日

カリフ制再興 ― 未完のプロジェクト、その歴史・理念・未来

中田考/2015年/書肆心水/四六

カリフ制再興 ― 未完のプロジェクト、その歴史・理念・未来とても面白い本だった。

読むことがすべて目新しく、僕が培ってきた価値観に対して揺さぶりをかけ続けられた本は久しぶりな気がする。僕のイスラム教に関する関心はチェチェン紛争から始まるが、あのころから比べても少しずつムスリムの本懐に近づきたいという思いが強くなっているのかもしれない。

イスラム関連の本としては、最近は黒井文太郎『 イスラム国の正体 』や田隅恒生『 「アラビアのロレンス」の真実:『知恵の七柱』を読み直す 』、『 オスマン帝国六〇〇年史 』あたりを読み継いできてこの本に至った。こういう下地(特にオスマントルコに関して)がないとやや難しい内容かもしれない。

ようするに西欧的な政教分離の領域国家ではなくイスラム伝統の政教一致のカリフ制の地域の可能性が示されている本なのだ。それを国と呼ぶのかどうかは別として、さらにそれが平和的に成立するのかは別として、中東地域をカリフ制によって統治するという考えは納得できるものだった。

そして、こういう視点で見るとイスラム国に対する見方も変わってくる。残虐な行為を繰り返す彼らの体制に対して肯定的な感情を持つことはないが、彼らがやろうとしていることとそこへ多くのイスラム教徒がシンパシーを抱く理由は少しわかった気がした。そして、彼らのやっていることがイスラム教において決して無茶苦茶なことではないということも僕の価値観を揺さぶった。

西欧的なグローバル経済が世界を席巻するいま、そのアンチテーゼとして民族主義が跋扈しているが、それともまた違ったオルタナティブとしてイスラム圏の国々はある。民族主義が各地域のタコツボ化になっている一方でイスラム教は一つの大きなコミュニティとして静かに広がり続けている点も見逃せない。

そうした諸々の状況を踏まえてイスラム教に興味を持っている今日この頃である。外側の話ばかり読んでいるので、そろそろイスラム教そのものについての本も読んでみようと思う。

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