bemod

2018年12月27日

ゲンロン0 観光客の哲学

東浩紀/2017年/株式会社ゲンロン/A5

ゲンロン0 観光客の哲学東浩紀氏の本は面白い。

この本を読んであらためてそのことを思った。ここで言う面白さというのは、発想の面白さというのとは少し違うのかもしれない。東氏の文章はとにかくわかりやすいのだ。哲学書なのでたくさんの哲学者の言葉や著書の内容が引用されるのだが、僕のような門外漢にも丁寧にそれらに解説がつけられていて、誰でも読めば最新の哲学について考えた気になれるのだ。

難しいことを難しく言う人や簡単なことを難しく言う人はたくさんいるが、難しいことを簡単に要約できる東氏の力というのは世間一般に流布しているイメージ以上の力だと思う。

郵便的マルチチュードの話はこれまでの東氏の著作の総括的なものでとても納得いくものだった。そこに家族という仕組が提示されたことも面白いと思った。かつて社会学者の鈴木謙介氏が『 サブカル・ニッポンの新自由主義 』で似たような話として地元の連れを挙げていたが、連れよりは家族のほうがずっとしっくりきた。

東氏のいう家族がしっくりきたのは、少し前に角田美代子関連の本(『 家族喰い ― 尼崎連続変死事件の真相 』や『 モンスター ― 尼崎連続殺人事件の真実 』など)を読んでいたからだ。この事件では養子縁組が巧みに利用されていたのだが、僕はそこにコミュニティの根っこがあるようにも感じていたのだ。

東氏のいう「家族」は養子縁組にも似た家族が想定されており、極端な話ペットも含まれている。そういう家族を軸に考えるというのは僕の考え方ともとても近く、ここ数年ぼんやりと考えていたことが実に明朗に書かれていてしっくりきたのだ。東氏の家族の話はコミュニティの未来を示す手がかりとして、もっと深く進めて欲しいテーマである。

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